研究課題/領域番号 |
26420141
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
多田 幸生 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (20179708)
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研究分担者 |
大西 元 金沢大学, 機械工学系, 助教 (80334762)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 凍結 / 過冷却 / 超音波振動 / 変動磁場 / 核生成 |
研究実績の概要 |
コールドチェーンの発達に伴って食品を安全かつ美味しく凍結保存する技術の確立が求められている.凍結保存は原理的には,低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で細胞レベルのミクロ現象が生じ,これが各種の凍結損傷に繋がる.したがって,食品の品質を劣化させない効果的な凍結技術の開発が課題となる.本研究では,超音波振動と変動磁場を利用した凍結過程における氷晶形成の能動的制御を追究する.すなわち,超音波の付与によるミクロな振動および変動磁場による静電気的作用を利用して,細胞内外の水の過冷却の促進を図り,それによる高品質な凍結を実現する冷却技術の開発を目標とする. 本年度は,模擬食品として純水を供試し,超音波振動の付与による過冷却促進実験を行い,過冷却度に及ぼす超音波振動の効果を操作条件と関連づけて実験的に検討した.また,変動磁場が食品の凍結に及ぼす影響を検討する基礎として,交番電場を付与したオニオンセルの一方向凍結実験を行った.これらの項目を実施した結果,本年度は以下の成果を得た.(1)1MHzの超音波振動を付与すると,超音波出力が大きい場合には,音波吸収に伴う発熱効果による核生成領域の変化が生じ,核生成に関与する面積の減少による過冷却度の増加が見られた.(2)振幅を周期的に変化させる振幅変調超音波振動を付与すると,超音波振動を0.6W/cm2程度の低出力で付与することで弱い過冷却促進の効果が見られた.(3)オニオンセルの凍結実験から,1kHzの交番電場を付与して電流を印加することにより,細胞の凍結開始温度が若干低下する傾向が見られた.しかし,試料の個体差の影響を受けやすい実験であるため,実験回数を増やしてよりデータの信頼性を高めながら,印加電圧および電場周波数の影響について検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した (1)実験装置の製作,(2)超音波振動を付与した水の凍結実験は予定どおり実施された.その結果,振幅変調超音波振動を付与すると弱い過冷却の促進効果が見られたことは望ましい結果である.しかし,超音波出力の増加に対して極大値を示す傾向が現れたことから大幅な過冷却促進が難しいことが予想される.このため,操作条件を変えた実験の継続と,新たな効果を併用した協同効果の発現などの可能性についても検討を進める必要があると考えられる.また,変動磁場の効果については,製作した装置系では大きな誘導電流を発生させることが困難であったことから,交番電場を試料に直接付与し,印加電流が細胞の過冷却凍結に及ぼす影響を実験的に検討する方法に変更した.データ数が不足しているが,過冷却を促進し,細胞凍結を抑制する傾向が一部みられたが,個体差の影響を加味してより詳細に検討する必要がある.これらより,次年度以降に予定している超音波振動と変動磁場を併用した実験を行うための基礎データが得られた.以上のことから,本研究はおおむね予定どおりに進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は今年度の結果をもとに,水溶液および細胞の過冷却促進を実現するための操作条件を超音波振動と交番電場の2通りについて実験的に追究するとともに,そのメカニズムの理論的検討を始める.具体的には,(1)今年度の実験において弱い過冷却促進効果が見られた振幅変調超音波振動に注目し,超音波出力および周波数を様々に変化させた実験を行い,氷核の生成・成長の阻止に効果的な操作条件を探索する.(2)交番電場を付与した組織細胞の凍結実験を継続実施し,その効果の有無を印加電流および電場周波数と関連づけて明確にする.(3)氷核形成の分子動力学シミュレーションモデルを水溶液系について構築し,その有効性を確認する.また,そのモデルを用いて様々な種類の外力を受けた水分子の凍結挙動についての解析を進める. 以上の検討結果をもとに,最終年度となる平成28年度は,魚肉および馬鈴薯を供試した超音波振動と変動磁場を付与した食品の凍結実験を行い,本手法の有効性を検証するともに,そのメカニズムと最適操作条件を理論的に追究する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度経費のうち,97,870円の繰り越しが生じたのは,当初購入を予定していた物品が,発注直前に為替変動により約20%程度の価格上昇が生じたため,その購入を次年度に変更したことが原因である.
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に生じた次年度使用額は前年度に予定していた物品の購入に使用する.よって,平成27年度の研究費使用計画の大枠は当初の予定通りとなる.具体的には,分子動力学計算用のコンピュータ,AC定電流電源などの設備備品に約90万円,セラミック製圧電素子,熱電対,高純度蒸留水,装置改良ための材料費などの消耗品費に20万円,成果発表および資料収集のための国内旅費(福岡,大阪,東京,仙台,各1回)に20万円の支出を予定している.
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