食品の凍結保存は原理的には,低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で細胞レベルのミクロ現象が生じ,これが各種の凍結損傷に繋がる.したがって,食品の品質を劣化させない効果的な凍結技術の開発が課題となる.本研究では,超音波振動と変動磁場を利用した凍結過程における氷晶形成の能動的制御を追究する.すなわち,超音波の付与によるミクロな振動および変動磁場による静電気的作用を利用して,細胞内外の水の過冷却の促進を図り,それによる高品質な凍結を実現する冷却技術の開発を目標とする. 本年度は,(1)食品の凍結モデルおよび損傷度の推算モデルの構築,(2)交番電場が生物組織の凍結に及ぼす影響,および(3)超音波振動を利用した組織体凍結の制御について検討を行った.まず,細胞内外の部分凍結および細胞膜を通した水分移動などのミクロ現象を組み込んだ凍結モデルを構築し,機械的・化学的損傷の推算モデルとの連結により解凍後のドリップ量の推定が可能であることを実験的・理論的に明らかにした.次に,交番電場を付与したオニオンセルの一方向凍結実験を実施し,微少電流印加により過冷却度が最大2K程度促進される結果が得られ,過冷却促進に有効な条件は電流値が20-25μA,交番周波数が1kHzとなることを明らかにした.この条件は,電気刺激に伴う植物細胞の細胞内pH低下の抑制が生じるとされる条件に近いことから,電場付与による過冷却促進も電気刺激による細胞活性が関係している可能性が示唆された.最後に,模擬食品として寒天ゲルを供試し,高周波超音波振動の付与よる組織体温度分布の制御実験を行った.冷却熱流束に対して適切な出力の超音波を付与することで組織全域を過冷却状態から急速凍結できることが見出された.以上の結果から,超音波および電場を利用する凍結制御技術の実用化のための基礎的知見が得られた.
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