研究課題/領域番号 |
26420177
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
太田 和秀 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60403929)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Cavitation / Cylinder liner / Piston slap / Engine / Vibration / Water pressure / Erosion / Fluid-structure |
研究実績の概要 |
本研究の前提条件となる構造振動によるキャビテーション発生条件を音響的な方法で検証した.箱形モデルの底面を大きな衝撃力で加振した場合,振動水圧が飽和蒸気圧以下に達するとキャビテーションが発生し,その気泡の崩壊とみられる高周波の水圧変動が発生することをハイドロホンによる計測で確認した.更に,微小な気泡含有量で水中の音速が変化することを音響管を用いた試験で確認し,水圧変動予測には音速の変化を考慮することが必要であることが明らかになった. 構造物に加振力が作用した場合の水圧変動を予測するには,密度が大きい水媒質音場と構造の連成振動特性を精度良く求めておく必要がある.有限要素法/境界要素法とモード解析法を用いた流体-構造連成振動解析法を開発し,箱形モデルを用いた加振試験でその妥当性を確認した.重い水媒質音場が構造振動に与える影響が大きく,また構造の接水面の動剛性(振動特性)によって音場の固有振動特性も大きく変化することを明らかにした. 音場の固有振動特性が変化すると構造振動による水圧変動応答が変化することを計算で検討した.音場の固有振動数が構造の振動数に近接すると,構造に同じ加振力が作用した場合の水圧変動が増大することを箱形モデルに対する解析で確認した. 複雑な形状を有する実機エンジンの冷却水室の音響解析のために,エンジンブロック鋳型を製作する場合の砂型モデルを参考にして有限要素モデルを作成した.更に,空気媒質でのエンジン構造の加振試験を行い,音場の音響特性が正確に再現できることを確認した.さらに実機エンジン構造と冷却水音場の連成振動特性を求め,ピストンスラップ力が作用した場合の水圧変動波形の解析を行ったところ,構造と音場の連成振動特性の影響で,特定のシリンダーで水圧変動が増大する結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造振動によるキャビテーション発生条件を音響的な方法で検証した.箱形モデルの底面を大きな衝撃力で加振した場合,振動水圧が飽和蒸気圧以下に達するとキャビテーションが発生し,その気泡の崩壊とみられる高周波の水圧変動が発生することを確認した.光学的な方法での確認も今後必要である. 流体-構造連成振動解析法を開発し,箱形モデル試験でその有効性を確認した.構造の振動特性を有限要素法を用いて定式化し,水音場の音響特性を有限要素法や境界要素法で表わし,モード解析法を用いて両者の連成振動応答特性を求める手法を開発した.箱形モデル試験で底面加振時の水圧変動のピーク値/ピーク周波数の実測結果は計算結果と良く一致した. 実機エンジン構造の解析モデルを有限要素法/境界要素法で作成し,その妥当性を冷却水を入れない空気媒質試験で確認した.エンジン構造や冷却水通路内音場の固有振動数や振動モードの計算結果は実測結果とほぼ一致した. 上記モデルを用いて,エンジン実機構造にピストンスラップ力が作用した場合の冷却水通路内の水圧変動を予測した.水中音速を500~1500 m/sの範囲で変化させていくと水中音速が1100m/s近傍で水圧変動振幅が極大値を取る結果が得られた.これは構造ー音場連成振動モードが音速によって変化することが原因であり,冷却水音場の音響特性がピストンスラップ力によって励起される水圧変動振幅に影響を与えることが確認できた.また,水圧変動のピーク値はシリンダー毎に異なり,同じシリンダーでもスラスト側の方が大きいことが確認された.これらの事象はこれまでのライナーキャビテーションによる壊食発生状況とほぼ一致している.
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今後の研究の推進方策 |
エンジン実機構造における水音場と構造の連成振動特性の計測結果が冷却水室内の残存気泡の影響でばらつくことが多く,気泡を除去した試験を実施し,解析モデルの妥当性を検証することが必要である.実機の冷却水通路形状は複雑であり,水流し試験等では気泡の除去が難しいことが明らかになったので,水圧を負荷して気泡を消滅させる対策を検討する.具体的にはエンジンブロックを水密構造にするためのカバー類を製作して取り付け,シリンダーヘッドの貫通穴から水圧変動計測用のハイドロホンを挿入する.ライナーを加振して冷却水室内の水圧変動とエンジンブロックの振動を同時計測し,固有振動数,振動モード,周波数応答関数を同定する.これらの計測結果と計算結果を比較検討して,解析モデルの妥当性及び問題点を明らかにし,必要であれば解析モデルを改良する. これまでの解析結果では,音場と構造の固有振動数が近接するとピストンスラップによる水圧変動が増大するという結果が得られているが,この条件を実機を用いた試験で確認することは難しいので,エンジン実機を模擬した複数の円筒と側壁からなる構造に水を注入し,注水量や仕切り板の挿入で音場の固有振動数を調整できるような,模擬エンジンブロックを製作して確認試験を行うことを検討する. 本研究最終段階では,上記の流体音場/構造連成振動解析法と研究代表者らが従来から開発してきたエンジン振動騒音の統合的解析法を組み合わせて,これまでほとんど不可能とされていた実機運転状態の冷却水室内圧力変動解析法を開発し,設計段階でピストン形状やクリアランス変更によるピストンスラップ衝撃力低減対策や構造振動と連成共振しないような冷却水室音場形状の決定等の各種のライナーキャビテーション防止対策の効果を定量的に検討できる世界初の数値解析技術を確立する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
エンジン実機構造に冷却水を注入して加振試験を実施したが,冷却水通路内の窪みに残る気泡を除去することができず,所望の計測結果が得られなかった.このため気泡を消滅させるための,加圧ができる試験装置への改良に取り掛かったが,当該年度までに設計を完了させて製作を開始することができなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
上記の試験装置の改良を行うとともに,計測が容易なエンジンー冷却水構造を模擬したモデル試験装置の製作を行う.
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