声帯を模擬した,中央部にスリットを設けた磁性エラストマー板を,人間の気管を模擬したパイプに取り付け,そのパイプ中に呼気を模擬した空気の一様な流れをつくることで,磁性エラストマー板が振動し,それにより音が発生することを確認した.さらに,磁性エラストマー板の厚さとスリット部の形状のそれぞれを複数設定し,磁性エラストマー板の振動の振幅や,それによる発生音が最も大きく,且つ安定して発生する組み合わせを見出し,磁性エラストマー製人工声帯の性能評価を行う基本形状とした. 次に基本形状の磁性エラストマー板を用い,磁場印加により,磁性エラストマー板の空気流れによる励起振動や,それに起因した発生音がどのように変化するのかを調べた.その結果,磁性エラストマー板の振動変位の時刻歴データーはほぼ正弦状であり,磁性エラストマー板への印加磁場を強くするにしたがい,その振幅が大きくなる傾向が見られた.一方,振動変位の時刻歴データーをFFT解析して得られた振動のスペクトルでは,印加磁場強度の変化に対応した,振動のピーク周波数変化は見られなかった.それに対して磁性エラストマー板の振動に起因した音の時刻歴データーは,正弦波とは異なる波形であり,且つ高周波成分を多く含むものであったが,振動と同様に,印加磁場を強くするにしたがい振動の振幅が大きくなることや,そのスペクトルから確認できるピーク周波数は,印加磁場強度を変えた場合にも変化が見られなかった.したがって,当初の目的である磁場印加により音の高さを変えることができる人工声帯を作るためには,磁性エラストマー部材の形状や構成材料,印加磁場分布等について,さらなる変更と確認が必要である.しかし一方で磁場印加により振動や音の振幅が変わるという結果は,磁場印加により声の抑揚(大きさ)を自由に変えることができる人工声帯の可能性を示唆するものであると考えられる.
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