研究課題/領域番号 |
26420197
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
伊藤 友孝 静岡大学, 工学部, 准教授 (00283341)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高齢者 / 歩行診断 / 転倒予防 / 杖 / 歩行支援 / バランス制御 |
研究実績の概要 |
近年の超高齢社会への突入に伴い,高齢者の転倒問題が重要視されている.本研究は,(a)高齢者の転倒防止を目的とした歩行状態の計測・評価システムを開発し,定量的かつ統一的な評価法が確立されていない歩行診断分野において「標準化された定量的歩行診断法」を確立すること,(b)転倒要因の解析結果に基づいて,段差や傾斜地・階段などで使用者の歩行を知的に支援する受動アシスト杖の開発,の二つを目標としている.平成27年度の研究実績の概要は以下のとおりである. 歩行診断法の開発に関しては,前年度に開発した下肢の運動計測・評価システムにシート状センサによる足裏の圧力分布計測システムを統合し,高齢者の歩行データを総合的に計測して診断可能にした.そして,福祉施設に通う高齢者50名に対して,歩行計測・診断実験を実施した.実験では,通常歩行の計測に加えて転倒要因を探る上で重要となる仮想障害物またぎ動作も計測し,歩行データの解析を行った.その結果,転倒暦のある高齢者とそうでない高齢者の相違点が複数明らかになり,一般の高齢者に対しても,歩行状態の診断だけでなく「将来の転倒リスク」を診断した上で効果的な改善法を提案できる可能性が見えてきた.これは次年度につながる大きな成果である. 受動アシスト杖の開発に関しては,前年度に開発したプロトタイプを元に,応答性やサイズ,機能を向上させた第2段階プロトタイプを開発した.特に,初期の構想段階から目標にしていた転倒危険時の突っ張り機能(転倒しそうになった際に杖の支持脚の一部を伸ばして転倒を防止する機能)を実現して効果を確認できたことは大きな成果である.また,不整地での接地のバランス制御法についても大きな改良を行い,様々な地面形状に対応できるようになったことで,性能が大幅させることに成功した.この成果は,国際会議でも高く評価され,Best Conference Paper Award Finalistを受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,当初の研究計画に基づき,(a) 高齢者の歩行診断法の開発と(b) 受動アシスト杖の開発の二つの課題に対して並行して検討を行った.実績の概要に記載のとおり,課題(a)に関しては,高齢者の歩行状態診断システムを改良し,歩行中の足の動きだけでなく足裏圧力も同時に計測して総合的に診断を行えるようになった.その上で,本研究の最終目標の一つである「高齢者の転倒リスクの評価」のための歩行データ中の着目ポイントを特定することができた.そのため,次年度は計画を前倒しして,さらに発展的な内容まで研究を進めることができるようになった.また,課題(b)に関しても,概要に記載のとおり,不整地でのバランス制御を刷新し転倒予防のための新しい機能(突っ張り機能)も実現できたことで,当初から構想していた内容の中核部分が完成した.この成果によって,次年度は,より効果的に研究を進めることが可能となった. 研究の成果は,国内会議で3件,国際会議で2件発表を行った.そのうち,国内では1件のベストプレゼンテーション賞,海外でも1件のBest Conference Paper Award Finalist賞を受賞した. 以上より,当初計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
27年度の研究が順調に進行し当初の計画以上の成果が得られたため,28年度は,それを踏まえてシステムの更なる機能向上と機能集約に注力する.高齢者の歩行診断に関しては,前年度の成果を元に高齢者の歩行データをさらに詳細に分析し,転倒リスクの分析機能を歩行診断システムに組み込み,標準化歩行診断システムとして集約する.下期には,高齢者福祉施設にて第三次歩行計測実験を実施し,工学だけでなく,介護福祉専門員,介護福祉士,看護師,医師の協力も得て,開発システムを多面的に評価する. また,受動アシスト杖に関しては,前年度の成果を踏まえて不整地でのバランス機能や転倒予防機能を集約した最終プロトタイプを完成させ,実用化段階の手前まで近づける計画である.その上で,杖を使用した歩行を上記のシステムで計測し,通常の杖と受動アシスト杖の性能比較を行い,開発した杖の最終評価とする. 得られた成果は,学会発表,学会誌論文の両方で社会に公表する.
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