本研究は,高齢者の転倒防止を目的に,工学・医学・看護学および高齢者福祉現場の強力な連携の下で,(a)これまで定量評価が難しかった歩行診断分野において「標準化された定量的歩行診断法」を開発すること,(b)近年利用者の急増している高齢者用補助杖に関して,屋外の不整地での歩行を知的に支援する受動アシスト杖を開発すること,の二点を課題とした.最終年度である平成28年度は,それまでの二年間で開発してきた内容を歩行診断システムとして機能集約し最終評価実験を行った.また,高齢者用受動アシスト杖(ロボット杖と命名)についてはマイコンとバッテリーを搭載して自立化を図り,最終プロトタイプとして完成させた上で評価を行った. 研究期間の三年間で開発した歩行診断システムは,福祉施設などの現場で簡単に装着して計測と評価を行うことが可能であり,歩行時の脚の動かし方や体幹動揺,荷重バランスなど様々な観点から歩行を評価し,歩行のタイプ(すり足歩行,脚の引き上げ歩行など)と合わせて対象者に提示することが可能である.本研究では,福祉施設に通所されている方を対象に歩行診断を実施し,歩行タイプやバランス診断のほか,仮想障害物の跨ぎ動作の評価や歩行の経年変化の評価も実施して,有効性を確認することができた.高齢者用受動アシスト杖は,屋外の不整地でも安心して使用できるように,磁気粘性流体を封入した伸縮式の支持脚を制御することで地面の段差の吸収や接地バランスの自動制御を実現した. これらの成果はJapan Robot Week2016で展示し,多くの来場者に評価をしていただくことができた.また,ロボット杖は「まるで魔法の杖」として評価され,各種のテレビ番組でも放映された.今後は,歩行診断システム・ロボット杖ともにさらに改良を加え,高齢者の転倒予防に向けた応用展開をしていう予定である.
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