研究課題/領域番号 |
26420223
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
萩原 誠 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (20436710)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / 風力発電システム / マルチレベル変換器 |
研究実績の概要 |
本研究では、近い将来に実用化が期待される10 MW(メガワット)級風力発電システムに適用可能な、高効率・高性能・低電磁ノイズを実現可能なマルチレベル変換器に関して検討を行った。検討したマルチレベル変換器は、単相フルブリッジ変換器のカスケード接続により構成する点に特長があり、カスケード数を増加することで変換器の高圧化・大容量化が容易にできる。本研究では、初めに発電機電圧が現状の690 Vの場合に10 MWの電力変換を実現した場合、インダクタなどの受動素子数の増加や電磁ノイズの増大が発生することを明らかにした。また、系統擾乱時の変換器の挙動を定めた系統連系要件(グリッドコード)の各国の導入状況を考慮した結果、ダブルスター・ブリッジセル方式マルチレベルカスケード変換器が、風力発電システムの特性を考慮すると次世代電力変換器として最も有望であると結論付けた。 次に、ダブルスター・ブリッジセル方式マルチレベルカスケード変換器の動作原理、制御法、変調法に関して詳細に検討した。初めに、上記変換器を用いた直流-三相交流電力変換原理に関して言及し、直流電圧が可変した場合も任意の振幅・周波数を有する三相交流電力変換が実現できることを明らかにした。また、変換器の詳細なモデリングの実現に成功し、変換器内を流れる循環電流を適切に制御することで、変換器に使用する直流コンデンサ電圧を一定に制御できることを示した。 次に、交流-交流モード動作時における変換器の挙動に関してミニモデルを用いた実験的検証を行っている。変換器内の循環電流と直流コンデンサ電圧を適切に制御することで、安定な変換器動作が実現できることを実証した。 最後に、変換器に使用する単位セル数の低減を目的とし、オープン結線の同期発電機を利用した風力発電システムを検討し、オープン結線時に問題となる零相電流抑制法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画の1項目目として、6.6 kV、10 MW(メガワット)級実機モデルの動作検証の達成を掲げた。本研究では、次世代型電力変換器であるダブルスター・ブリッジセル方式マルチレベル変換器を適用することで、変換器の高圧化と大容量化を同時に実現し、かつ高性能・低電磁ノイズの電力変換器を実現できることを明らかにした。一方、上記変換器の正常動作を達成するためには、変換器に用いている複数個の直流コンデンサ電圧の電圧バランスと、変換器内を流れる循環電流を適切に制御することが必要不可欠であり、上記の実現は当該研究分野の研究者の間で実現不可能と考えられていた。 本研究では、初めに直流コンデンサ電圧の制御法に関して検討を行った。その結果、直流電圧一括制御、アームバランス制御、個別バランス制御を同時に適用することで、いかなる動作条件においても直流コンデンサ電圧を良好にバランスできることを明らかにした。提案したバランス制御法の実用性は研究室で設計・製作したミニモデルで確認できたことから、当初の計画に対して順調に研究が進んでいると考えている。 次に、研究実施計画の2項目目である高精度モデリング手法の確立に関して取り組んだ。高精度モデリング手法の確立は、変換器制御に使用する制御ゲインの決定の際に必要不可欠となる。しかし、実際は電力制御、直流コンデンサ電圧制御、循環電流制御の3個を使用しこれらは相互に干渉するという問題点を発見した。そこで本研究では、初めに大胆な近似・仮定を導入することで上記制御法の非干渉化を試みた。上記近似を適用することで理論とシミュレーションのある程度の合意は得られたが、まだ相互に干渉する状況は変わっていない。そこで次年度は上記問題点を再度精査し、相互干渉に影響を与えている主要因の解明を達成する。
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今後の研究の推進方策 |
現在、世界中で大容量風力発電システムに関する検討が行われており、風力発電システムに適した各種変換器方式が提案されている。中でも、風力発電機の出力にダイオード整流器を使用する方式は、低価格・低重量・高信頼性であることから、今後の変換器方式の主流になる可能性が高い。一方、ダイオード整流器を使用した場合、整流器の直流側電圧は風力発電システムの発電量に応じて大きく変動する。例えば、無風状態の場合直流電圧は零に近づき、最大風速の場合に直流電圧は定格値を取る。上記変動する直流電圧を系統連系を実現するために一定値の直流電圧にするためには双方向チョッパを使用する必要がある。しかし、1 MWクラスの双方向チョッパの場合、使用する直流インダクタの重量・体積が大きくなり、変換器重量・体積の大型化・高重量化を引き起こすという問題点が指摘されている。 そこで、本研究では風力発電への適用を想定し、双方向チョッパに使用するインダクタの小型化・軽量化の実現を試みる。これは、マルチレベル方式変換器の特長を一般的な双方向チョッパに適用する点に特長がある。マルチレベル変換器の特長を最大限に活用することで、インダクタの重量・体積を従来の10分の1以下にすることを目的とする。提案した回路方式の有用性・妥当性はPSCAD/EMTDCを用いたコンピュータシミュレーション、および研究室で設計・製作する直流150 V 40 Aミニモデルを用いた実験的検証により確認する予定である。 本研究では、初めに提案する回路方式に適した直流コンデンサ電圧制御法や電流制御法を提案する。また、マルチレベル変換器方式を適用した場合としない場合で、どの程度インダクタが低減できるかを定量的に評価する。また、デッドタイムやスイッチングの個体差が変換器動作に与える影響について評価する。
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