研究課題/領域番号 |
26420228
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
荻野 明久 静岡大学, 工学部, 准教授 (90377721)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電子発電 / 太陽光発電 / 半導体 / プラズマ応用 |
研究実績の概要 |
熱と光の効果を利用した発電技術の開発を目的とし、1000 K以下における半導体エミッタからの光支援熱電子放出電流について評価・検討した。想定している発電温度域において実用的な発電出力を得るには、半導体エミッタの電子親和力低減に有効なエミッタ表面形成が必要となる。本研究では光支援熱電子発電器用エミッタの表面処理手法としてプラズマ処理について着目し、低気圧マイクロ波プラズマおよび大気圧プラズマジェットを照射したエミッタ表面にアルカリ金属ディスペンサーを用いてセシウムなどの低仕事関数原子を供給することで電子親和力を低減し、光支援熱電子放出に及ぼす影響を調べた。 実験では、プラズマ処理したエミッタを真空容器内で加熱しつつ、セシウムを供給し、キセノンランプ光をエミッタ表面に照射したときの電子放出特性を測定した。また、プラズマ処理した表面はXPSにより解析しており、電子放出特性と併せて検討した。 まず、低気圧マイクロ波プラズマの表面処理においてガス種の効果を比較した結果、水素プラズマを照射したシリコン基板では、電子放出が抑制されることがわかった。一方、アルゴンプラズマおよび酸素プラズマにより処理した基板表面からの電子放出は増加した。また、シリコン基板へ照射するアルゴン/酸素混合プラズマの処理時間を変え、セシウム吸着による電子放出特性を評価した結果、10分間のプラズマ照射した基板において最も高い熱電子放出電流が得られた。一方、照射時間30分のプラズマ処理では、照射時間10分の処理に比べ、放出電流密度は低減するが、セシウム供給を停止した後の電流減衰は小さく、他の条件で処理した基板に比べセシウムの吸着が安定していることを示唆する結果が得られた。これは、基板表面の分子構造およびセシウムの吸着サイト数が変化するとともに、酸化膜の厚さが電子密度を通じて熱電子放出電流値に影響したためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基板種および基板処理条件によるが、エミッタ温度773 KにおいてmA/cm2オーダーの電子放出が得られおり、研究開始以来、順調に電子放出特性は向上している。また、プラズマ処理による前処理がセシウム吸着時の電子放出特性を向上させる結果も得られており、XPSにより得られる表面構造と電子放出特性向上のメカニズムについても検討を進めている。 電子放出特性をさらに向上するには、アルカリ金属の供給条件および負の空間電荷効果を緩和するが必要となる。mA/cm2オーダーの電流値においては、空間電荷の影響が顕在化し、これまで以上の対策が必要になる。現在、エミッタ-コレクタ間をマイクロm程度まで狭ギャップ化する装置を準備し検証と改良を進めており、ギャップ長を小さくすることで測定される電流値が向上することを確認している。 なお、アルカリ金属を用いる電子放出特性は、表面状態のわずかな差異により電子放出が向上する反面、大気暴露などの影響により特性が悪化する場合もあり、再現性に問題がある場合がみられる。今後は、表面構造と電子放出特性を関係づけるメカニズムについても検討を進め、再現性の改善する。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマ処理により表面酸化した基板表面にセシウムを供給することで電子放出特性が向上する結果を踏まえ、XPSを用いた表面構造の解析結果と電子放出特性を照らし合わせ、酸素の結合状態と電子放出特性の関係を検討し、電子放出特性の向上を図る。 また、測定室内のアルカリ金属原子の密度を測定し、電子親和力を低減させるために供給するセシウム濃度の最適化を行う。アルカリ金属原子の測定は、一般的な四重極質量分析器による測定のほか、表面電離によりイオン化したアルカリ金属を二次電子増倍管により検出する測定を準備中である。なお、実験に使用しているアルカリ金属ディスペンサーは、最大供給量と供給時間がやや不足気味であるため、大容量ディスペンサーによる長時間安定したアルカリ金属の供給により、エミッタ温度等の諸条件と電子放出特性の関係を明確にし、最適化することで電子放出特性の向上を図る。 エミッタ基板に関しては、ダイヤモンド薄膜などのシリコンの以外の材料についても評価と検討を行う。
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