研究課題/領域番号 |
26420246
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 宣夫 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (70397602)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パワーデバイス / 高速スイッチング / フライバックコンバータ |
研究実績の概要 |
スイッチング電源回路における動作周波数の高周波化により,一周期当たりで扱うエネルギー量が減少し,インダクタやキャパシタの体積サイズを縮小できる.このことから電源自体の小型・軽量化が図られ,電源回路における達成目標の1つとされている10 W/立方センチメートルが実現可能となる.その一方で,高周波動作において,回路内の寄生インピーダンスの影響が顕在化する.つまり回路配線パターンやその構成素子の寄生成分に起因するサージ電圧やテール電流,それらのリンギング現象によりスイッチング損失が発生し,さらにその損失による発熱により素子の破壊を誘引するため,それらの抑制を図っている. 本研究では,フライバックコンバータ回路で用いられるバルブデバイスとして,高速スイッチング動作が可能と考えられるパワーMOSFET(電界効果トランジスタ)に着目し,一般的な半導体材料であるシリコン(Si)製,また近年開発されているワイドバンドギャップ半導体であるシリコンカーバイド(SiC)材料デバイスに対して,まず,それぞれ静特性ならびに動特性の評価を行った.具体的には,動作周波数を1 MHzとした高速スイッチング時における波形観測と損失の評価から,それらを比較検討した. 静特性評価には,半導体カーブトレーサ装置を用いた.また動特性評価のための測定回路は, 各線路の寄生インダクタンス, 寄生キャパシタンスを極力減らすように設計し製作した.これらの静特性および動特性の評価から,スイッチング損失を実証し,またそれを抑制するためには,まずサージ電圧を抑制するためのスナバ回路の導入,さらにサージ電圧の発生要因と考えられるMOSFETのパッケージなどに起因する寄生インダクタンスを可能な限りケアして,最小化することが肝要であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,(1) SiC-SBD, SiC-MOSFETの動特性評価,解析法の確立,(2) 絶縁型コンバータ回路の動特性評価に基づく回路設計法の確立,(3) インバータ回路における動特性評価に基づく回路設計法の確立,(4)太陽電池と二次電池を連結した高速スイッチング電源の作製に基づくシステム設計手法の確立,これら4つを達成目標としている.初年度に,(1)は完了し,(2)についても学会発表(IECON2015)での準備段階にある. 具体的な達成事項については,まずパワー半導体デバイスの静特性評価からはワイドギャップ半導体材料デバイスの特長である導通損の低減を確認した.続いて,動特性として描かれるスイッチング軌跡から見積もられるスイッチング損失は,静特性には一切現れない評価指標であることからも,その有意性を確認した上で,特にSiC製パワーデバイスでは大きなサージ電圧の発生に伴うと考えられる損失増大が実験的に確認し,またリンギング現象がパワーMOSFETの寄生容量(特に帰還容量)に依存していることも合わせて確認した.これらはスイッチング電源に重要な指標であるON/OFF切換時の動特性評価と解析であり,パワーMOSFETの素子構造(主に寄生容量)と回路構成(主に寄生インダクタンス)により生じるスイッチング損失抑制のための実験的評価,データ蓄積が完了したことになる.さらに加えて,SiC製のパワー半導体デバイスを用いた絶縁型フライバックコンバータ回路を試作し,1MHz以上での実験的動作に成功している.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては,まずフライバックコンバータ回路での寄生インピーダンスを含めた回路定数の最適化による13.56MHzでの動作,またそのソフトスイッチング動作によるスイッチング損失を極限まで低減させる回路設計指針を得る. ただし,スイッチング周波数の上昇に伴う損失評価,インダクタ,キャパシタの小型化に向けた回路実装に関する実証実験に基づくデータの蓄積が必要不可欠である.また特に回路小型化に伴う潜熱問題に着目し,高機能形熱画像計測装置によるパワー半導体デバイスの耐熱性,回路内での熱流動の実験的解析と配置箇所に関する回路設計指標を確立していく.さらに電界コンデンサの変質・故障問題の打開のため,セラミック系コンデンサの採用についての設計指標を得る. その後,DC-AC変換を担うインバータ回路内において,SiC製のパワー半導体素子を用い,各アームのスイッチング特性を実験的に評価,解析する.その際もキャリア周波数13.56MHzでのスイッチング動作を実現し,回路各所の電圧・電流の波形観測により,スナバ回路と遅延回路の設計,それらを実現するための素子選定と回路構築に基づく指針を得ていく. 以上のことから,高周波スイッチング電源システムにおいて,デバイス単体の性能向上だけに着目するのではなく,ワイドバンドギャップ・パワー半導体デバイスと回路の寄生インピーダンス(浮遊インダクタンス,浮遊容量,接触抵抗)を考慮した回路設計手法を回路実作製とその回路解析に基づいて確立していく形で推進していく.
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