研究課題/領域番号 |
26420267
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
福田 武司 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40509121)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 静電塗布法 / グラデーション構造 / ラマンスペクトル / 結晶化 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、有機薄膜太陽電池の光捕集効率の向上が可能なグラデーション構造を実現するために、深さ方法にp/n混合比率を制御可能な交互間欠静電塗布法を試みた。具体的には、ガラスキャピラリーの意図しない帯電を抑制するための実験系の改良と最適なパルス電圧の条件などを検討した。最初に溶液に印加するパルス電圧の幅を変化させて、パルス幅が6秒未満の条件ではガラスキャピラリーから噴射する液滴が不安定になることが判明した。また、6秒以上というパルス幅条件で、P3HTとPCBMの溶液にそれぞれ印加する電圧のパルス幅を変化させることで、p/n混合比率を0.4~4.0まで制御することが可能になった。ここで、別途評価したスピンコート法で成膜したP3TH:PCBM比率の異なるサンプルの紫外可視吸収スペクトルと比較することでp/n混合比率を見積もった。本手法を活用し、有機活性層の上部と下部でそれぞれp/n混合比率を変化させることで、深さ方向でp/n混合比率を制御することに成功し、太陽電池特性も均一に2.11%から2.94%まで向上させることに成功した。また、成膜した有機薄膜の結晶状態を評価するために、ラマンスペクトルやSpring8でのX線解析を行った。最初の段階の評価として、P3HT:PCBMの系を検討した結果、静電塗布法における溶媒蒸発時間とP3HTのエッジオン配向成分の割合に明確な相関関係が得られ、この結果から溶媒蒸発時間が長くなるに従って、有機分子がゆっくりと配向していくことが示唆された。また、太陽電池特性も同様の傾向が得られ、静電塗布法における溶媒蒸発時間が有機薄膜の結晶性及びそれに付随する太陽電池に与える影響を初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトで最大の目標である深さ方向にp/n混合比率を変化させたグラデーション構造を成膜する技術は基礎的な段階としての技術を確立した。最初の検討として一般的なP3HT:PCBMを用いた系を用いて、p/n混合比率の0.4から4.0までの制御技術や有機薄膜太陽電池を作製する成膜条件は最適化した。その結果、従来のスピンコート法と比較して、発電効率を2.94%まで改善することが可能になった。また、リアルタイムでの吸収スペクトルの測定装置を静電塗布装置に組み込むことを想定していたが、研究の進展に伴い、有機薄膜の成膜中にリアルタイムでラマンスペクトルを評価する方が有機薄膜の結晶状態をより正確に定量化できることが分かった。そのため、ラマンスペクトルの装置を組みこんだ静電塗布装置を組み上げて、その効果を実証した。ラマンスペクトルでは結晶状態とアモルファス状態のラマンスペクトルが変化することから、ピークフィッティングするソフトを作り、P3HTの結晶状態の定量化に成功した。初めに、スピンコート法で熱処理温度を変化させたデバイスで太陽電池特性とラマンスペクトルから見積もった結晶化度の間に相関関係があることが分かった。また、この結果を活かして静電塗布法においても溶媒蒸発時間が長くなるに従ってP3HTの結晶化が促進する傾向があることを実証した。また、スピンコート法を用いた有機薄膜太陽電池の高効率化も合わせて検討を行い、ZnO層の熱処理温度やMoO3への熱処理酸化、光干渉効果をシミュレーションで検討を行った膜厚の最適化などによって最高で10.1%の高効率化を実現した。以上のことから、平成26年度に実施予定の項目を達成しただけでなく、平成27年度の実施予定の内容についても先駆けて成果をだすことに成功した。以上のことから、現在までの達成度としては、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように当初想定していたリアルタイムで有機薄膜の吸収スペクトルを測定可能な静電塗布装置はあまり有効ではないと判断したため、本プロジェクトでは検討を行わないこととした。その代替として今年度構築したリアルタイムでのラマンスペクトル測定装置を用いて成膜途中で有機薄膜の結晶状態がどのように変化するかを評価する。また、P3HT以外にも高効率化を実現しているPTB7やPBDTTT-EFTなど新しいポリマーに本手法を適用して有機薄膜太陽電池の高効率化を実現していく。研究開始に想定していたスケジュールよりも多くの成果が得られていることから、平成28年度は新しくハロゲンフリーの溶媒を用いた静電塗布法で従来のジクロロベンゼンやクロロベンゼンを用いて作製した有機薄膜太陽電池と同等の性能を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していたよりも研究が順調に進んだために、予定よりも消耗品の支出が少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の残額である43702円は主に新規ポリマーの購入費用に充てて、高効率な有機薄膜太陽電池の実現を目指す。
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