研究課題/領域番号 |
26420269
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
垣尾 省司 山梨大学, 総合研究部, 教授 (70242617)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | SAWフィルタ / 縦波型リーキー弾性表面波 / 低損失化 / ScAlN薄膜 |
研究実績の概要 |
移動通信システムの高速化・大容量化に伴い,LiNbO3やLiTaO3などの圧電結晶基板を用いた弾性表面波(SAW)フィルタの高周波化・広帯域化が強く要請されている.縦波型リーキーSAW(LLSAW)は,通常のSAWと比べて1.5~2倍の位相速度を持つため,高周波化に有利なSAW伝搬モードである.しかし,バルク波を基板内部に漏洩しながら伝搬するため,非常に大きな伝搬損失を有する.本研究では,LiNbO3基板上に,基板よりも高音速な圧電性薄膜を装荷することにより,LLSAWの低損失化と高結合化を図り,現在の約2倍の周波数帯を利用する次世代携帯電話端末に適用可能な高周波・広帯域SAWフィルタを実現させることを目的としている.圧電性薄膜として,スカンジウムドープ窒化アルミニウム(ScAlN)薄膜を用いる.本年度の実施内容と研究成果を以下に示す. 1. ScAlN薄膜の作製・評価:AlとScの2つのターゲットを用いる二元スパッタリング法によってScAlN薄膜を成膜した.まず,合成石英基板上に成膜し,X線回折曲線により配向性を評価した.アルゴンと窒素の流量比が3:2,ガス圧が0.2 Paのとき,高い配向性が得られた.Sc/Alの組成比は31%と測定され,目標とする40%より小さい値であった.次に,薄膜と音速の近いシリコン,及びサファイヤ基板上に成膜後,すだれ状電極(IDT)を形成した.SAW励振が観測されたが,結合係数は報告値よりも一桁小さいものであった. 2. LLSAWの低損失化: Xカット36°Y-LiNbO3基板上に波長8μmの送受IDTを形成した後,波長の1/4の膜厚を有するScAlN薄膜を装荷した.伝搬長さの異なる複数の送受IDT間の挿入損失から求めたLLSAWの伝搬損失は,未装荷試料の0.20 dB/波長から0.08 dB/波長に低減した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二元スパッタリング法によって高い配向性をもつScAlN薄膜を得たが,報告値に近い圧電性は得られていない.このため,当該年度に予定していた薄膜の材料定数の算定と,それらを用いたLLSAW伝搬の理論解析には至らなかった.窒素をラジカル化して成膜すると,SAWの励振強度が増加したことから,成膜中のAlの窒化が間に合っておらず,Alリッチである可能性が高い.窒素ラジカル源の高周波パワーを増大させる,成膜速度を遅くする,Scの含有量を増やすなどの今後の検討により,十分な圧電性をもつScAlN薄膜の成膜が見込まれる.また,圧電性は小さいが,ScAlN薄膜装荷によるLLSAWの低損失化を実験的に明らかにした.以上の結果から,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,配向性が高く,かつ圧電性の大きなScAlN薄膜の成膜条件を検討する.窒素ラジカル源の高周波パワーを増大させる,成膜速度を遅くする,Scの含有量を増やすなどの検討を行う.状況に応じて,ScとAlをあらかじめ混合させたターゲットによる成膜も検討する.また,並行して,有限要素法を用いたSAW伝搬解析により,薄膜の圧電性が小さくても高い結合係数を得るための基板構造を検討する.これらの検討により,提案構造を用いた高周波SAW共振子の設計・作製と,その有効性の実証に繋げる.
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