縦波型リーキーSAW(LLSAW)は,通常のSAWと比べて1.5~2倍の位相速度を持つため,弾性表面波(SAW)フィルタの高周波化に有利であるが非常に大きな伝搬損失を有する.本研究では,圧電基板上を伝搬するLLSAWの低損失化と高結合化を図り,次世代移動通信システム端末に適用可能な高周波・広帯域SAWフィルタを実現させることを目的としている.最終年度は,昨年度に提案したLLSAWの高結合化の新たなアプローチである,圧電薄板と高音速な支持基板との接合を実験的に検討した.研究期間全体を通じて実施した研究の成果を以下に示す. 1. AlとScの2つのターゲットを用いる二元スパッタリング法を用いて,c軸優先配向したScAlN薄膜をXカット36°Y-LiNbO3基板上に装荷し,LLSAWの伝搬損失を評価した結果,未装荷試料の0.20 dB/波長から0.08 dB/波長に低減することを明らかにした.しかし,大きな圧電性が得られなかったため,低損失化と同時に高結合化を得ることは困難であった. 2. 圧電薄板と高音速な支持基板との接合によるLLSAWの高結合化を理論的,実験的に検討した.Xカット36°Y-LiNbO3とc面サファイアを直接接合した後,LNを0.19波長の厚みに研磨した試料上のLLSAW伝搬特性を評価した.LN単体試料と比較して,結合係数が2倍(19.7%)に増加すること,共振特性が向上することを明らかにした. 3. 横波型LSAWについて高音速薄膜装荷による低損失化・高結合化を検討した.回転YカットLiNbO3とAlN薄膜を組み合わせると,基板単体よりも大きな結合係数と最小の伝搬損失が同時に得られることを理論的,実験的に明らかにした.
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