研究課題/領域番号 |
26420277
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
内田 裕久 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30271000)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁気光学効果 / プラズモン共鳴 / 金粒子 / FDTD計算 / SNOM |
研究実績の概要 |
ナノ構造を材料に導入することによって,その材料が本来持っている機能をさらに高めることができる.周期的配列構造を持つ金ナノ粒子と磁性ガーネット(Au/Bi:YIG)複合構造体では,プラズモン共鳴が複数現れ,それぞれの共鳴波長でファラデー回転角が増大する.本研究では,このような複合構造体を作製し,それらの光学および磁気光学特性を明らかにすることを目的とする. 昨年に引き続いてFDTD法を用いて光学応答の検討を行った.計算では透過率スペクトルは,実験結果とよく似たものが得られた.つまり複数のプラズモン共鳴が現れ,粒子のサイズと周期によって変化する.金粒子の周期を250nm一定にした場合,粒径が大きくなると共鳴波長が長波長へシフトする.粒径120nmではプラズモン共鳴が660nmと730nmに現れるが,粒径が大きくなると680nmで重なり,そのとき強い共鳴が起こることが分かった.また金粒子で大きな分極が生じるが,短波長側の共鳴では,極数が多い多重分極が現れ,極数と波長に関係があることが分かった. 複合構造体の光学像を観察するため,無開口プローブを用いる近接場光学顕微鏡(SNOM)の開発を行った.我々が以前作製したSNOMは,開口がある光ファイバープローブを用いるSNOMであるが,この方式では100nm以下の分解能を得るのが難しかった.複合構造体では数十nm以下の分解能が必要になるため,W線を電解研磨することによって先鋭化した探針を水晶振動子に取り付けて使用する無開口プローブSNOMへと変更した.これによって構造の観察ができたが,分解能は十分ではなかった.これは作製したW探針の先端の曲率半径が十分でないことと,W探針の先端が変形するためであると考えられる.そのためAFMカンチレバーの先の探針をチューニングフォークに取り付ける方式の検討を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではプラズモン共鳴によって磁気光学効果を増大させることができる金粒子と磁性ガーネットの複合構造体を実験とFDTD計算によって研究を進めたものである.H27年度までの研究により,複合構造体の周期と粒子のサイズにより,プラズモン共鳴波長が移動する現象について理解を深めることができた.周期配列構造体では,複数のプラズモン共鳴が現れるが,計算によりそれらは全て同じ振舞をするのではないことが分かった.また電界分布を求めることにより,多重分極と関連することがわかった.多くの振舞が現在は明らかになった.これらにより最も波長の位置制御に適する共鳴,および磁気光学効果の増大に適する共鳴についての知見が得られるものと考えられる. H26年27年にレーザ描画装置の開発を進めてきた.オートフォーカス機構を加えることにより,線幅2μm以下で任意のパターンを広範囲で作製することができるものである.フォトマスクを使用することなしにパターンを作製することはコストの面で利点があると言える.今後機会があるなら,産学連携による技術移転を検討したい. 粒子を2次元に配列させ,それをテンプレートとして周期構造を作製する方法について検討を行ったが,密に球が配列する領域を基板全面まで広げることは,現在では難しいことも分かった.基板の一部では密に配置させることはできるのだが,全面を密に配置させることはできていない.しかしながら,本研究のためには電子ビーム描画装置を使用して作製することができているため,これからも周期構造作製には電子線描画装置を用いることにする.安価に大面積に周期的な構造を作る方法は今後の課題になる.
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今後の研究の推進方策 |
1)磁気光学ナノ構造体の磁気光学応答: H27年度に得られた結果から,我々が研究の対象としている金粒子と磁性ガーネットの複合構造体では,実験結果とFDTDシミュレーションが大よそ一致することを確認できた.昨年までは粒径と周期だけを変えて,膜厚を一定として計算をしてきたものを,膜厚を変えることによってより実験と合うようにすることができた.まだ違いはあるが,これらはガーネットの誘電率に起因すると考えられるため,実験と計算により解明することを目指す.またFDTD法によって,ファラデー回転角を得る方法についても検討を行う.バルクあるいは薄膜,あるいは積層膜だけなら,行列を用いたマトリックアプローチ計算により透過率や回転角を出すことができるが,複合構造体ではこの方法が使用できない.そこで微小な空間についてマックスウェルの方程式を解く,FDTD法によって回転角の導出を試みる.
2)近接場光学顕微鏡(SNOM)による複合構造体の近接場分布の観察: 我々が開発したSNOMを用いて,Auナノ粒子の周辺で発生する近接場を測定し,この試料で起こっている現象について考察を行う.これまでのSNOMは開口プローブを用いる方式であったが,H27年度に無開口プローブを用いることができるSNOMへと改造を行った. H27年度は,電解研磨によって作製したW探針を用いたが,微細な構造を観察するには十分ではなかったため,曲率半径が小さなAFMカンチレバーの先の探針をチューニングフォークに取り付ける方式の検討を行う.AFMカンチレバーは先端の形が決まっており,材料も選択できる.したがって,より高い分解能の像の観察が期待できる.
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