研究課題/領域番号 |
26420279
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
野村 一郎 上智大学, 理工学部, 准教授 (00266074)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体 / タイプⅡ超格子 / 分子線エピタキシー法 / InP基板 / 光デバイス / サブバンド間遷移 / フォトルミネッセンス / ドーピング制御 |
研究実績の概要 |
1.InP基板上ZnCdSe/BeZnTeタイプⅡ超格子の透過吸収測定を行った。サンプルの超格子層以外の下地層を除去した後、透過光及び反射光スペクトルを測定して、それらを基に吸収係数スペクトルを算出した。フォトルミネッセンス(PL)発光特性と比較したところ、発光ピーク波長が吸収端波長とほぼ同じ位置に見られ、PL発光がバンド間遷移によることが分かった。また、吸収端の立ち上がりが直接遷移型半導体であるZnCdSeよりも緩やかであった。この原因については未だ明らかではないが、キャリアの遷移過程や状態密度によるものと推察され、タイプⅡ超格子の特徴の一つと考えられる。今後より詳細に検討することで更に特異な現象が見出されると期待される。 2.ZnCdSe/BeZnTe超格子において、ZnCdSe層をn形ドーピングした超格子とBeZnT層をp形ドーピングした超格子を結合させたp-n接合ダイオ-ドを作製した。電圧電流特性を測定したところ良好なダイオード特性が得られ、当該超格子がp形及びn形に制御できる可能性が示された。今後デバイスへの応用が期待される。 3.ZnCdSe/BeZnTe超格子におけるサブバンド間遷移の理論解析を行った。超格子のZnCdSe層を5分子層から10分子層、BeZnTe層を1分子層から16分子層に変えることでサブバンド間遷移波長を約1μmから3μmの間で制御できることが分かった。また、ZnCdSe層が6分子層及び7分子層において、1.5μm帯のサブバンド遷移が得られることが予測され、光通信波長帯デバイスへの応用の可能性が示された。 4.レーザやLED等のデバイスにおけるp側コンタトの低抵抗化について検討した。p形ZnTeコンタクト層にPt/Au/Pd電極を施すことで6.5×10-5Ωcm2の低い接触抵抗が得られた。これは今後のデバイスの高性能化に大きく寄与する成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究開始の初年度に当たり、ZnCdSe/BeZnTe超格子の高品質化や光学特性、ドーピング特性等の評価を主な目的としたが、何れにおいても順調に成果が得られ、おおむね計画通りに進んだ。例えば高品質化については、バッファー層や超格子界面における成長条件を最適化することで、X線回折測定において明瞭なサテライトピークが観測され、また優れた発光特性が得られるなど、結晶性の向上が認められた。 一方、超格子の諸特性の評価については、基礎的な光学特性やドーピング特性について調べ、また理論解析によるサブバンド遷移波長の検討を行うなど、初期的ながら確実な進展が得られた。例えば、超格子の透過吸収測定を行い、光吸収特性を初めて明らかにした。また、サブバンド間遷移の理論解析では、当該超格子が光通信波長帯に対応することが示され、今後の発光、受光、光変調等へのデバイス応用の可能性が開かれた。 ドーピング特性については、元々ZnCdSeはn形に、BeZnTeはp形にドーピングできることは既に分かっていたものの、それらを組み合わせたZnCdSe/BeZnTe超格子においてp形またはn形にドーピング制御できるかどうかは不明であった。しかし、本年度の成果として超格子を用いたp-n接合ダイオードにおいて良好なダイオード特性が得られたことから、超格子のp形及びn形制御の可能性が示された。これより、当該超格子だけで構成された発光素子等、新たなデバイス展開が期待される。 また、本年度の目的にはなかったが、p側コンタクトの低抵抗化に成功したことは、素子全体の抵抗低減につながり、発熱の抑制や素子の長寿命化等に効果があることから、今後のデバイス開発や高性能化に向けた大きな成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまではほぼ計画通りであり、今後の研究推進方策も当初の予定通り、ZnCdSe/BeZnTe超格子の高品質化、物性の解明、特性評価、デバイス応用に向けた検討を中心として研究を進めていく。 具体的には先ず、光学特性評価については、発光効率等の発光特性及びその短波長限界、長波長限界の評価、誘導放出における閾値等の特性評価、光吸収特性の測定、サブバンド間遷移の特性評価等が挙げられる。発光効率の評価としては、フォトルミネッセンス(PL)発光の温度特性や時分解PLによる発光寿命時間、キャリア寿命時間等の測定により行う。また、短波長、長波長限界については、様々な層厚比の超格子を作製し、上記発光特性、発光効率の評価により検討する。更に、当該超格子を活性層に用いたダブルヘテロ構造(DH)を用いて光励起実験を行い、誘導放出特性を調べる。一方、本年度から始めた光吸収特性の評価も更に進め、超格子の層厚比依存性や周期依存性について検討する。また、デバイス構造における光起電力の測定も開始し、超格子活性層の光吸収特性についてより詳細な評価を行う。サブバンド間遷移についても、実際に光の吸収や発光特性について調べ、理論解析との比較検討やデバイス応用に向けた検討を進める。 また、デバイス化に向けた検討も行う。先ずは、超格子に適したクラッド層材料について、超格子へのキャリア注入や閉じ込め、ドーピング特性、屈折率等を調べ総合的に検討する。具体的なデバイスとして、LED、レーザ、太陽電池を取り上げ、実際にデバイスを作製し、特性向上に向けた素子構造や作製条件の最適化を進める。 以上に加え、結晶の高品質化においても従来の条件を更に突き詰め、継続的な努力を行っていく。具体的には、バッファー層や超格子成長時の原料供給比や成長温度といった成長条件、また原料の供給手順等の成長方法の最適化を進め、超格子やデバイスの特性向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予算の主な使途は、設備備品である「分光特性評価装置」や実験機材等の消耗品の購入とした。「分光特性評価装置」自体やその整備に必要な周辺の実験機材が予想よりも高額となり、その増加分を当初予定していた「旅費」、「人件費」、「その他」の予算から支出することになった。その結果、「人件費」や「その他」の支出はゼロとなり、また本年度は研究に関連した遠方の出張がなかったため旅費の支出もゼロであった。これらと先の実験機材購入の増加分を合わせて最終的に若干の予算残が生じ、これにより次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度生じた予算残は、次年度において主に消耗品の購入に充て有効利用する。結晶成長や実験に使う半導体基板や材料、薬品等の消耗品は、実験の回数が予定よりも増えることで消費量も増加し、また発注から納品までの期間が長い場合もあるので予め余裕をもって準備しておく必要がある。そのため本年度の予算残と次年度予算を合わせて少し多めに発注し、実験回数の増加など予想外の事態に対処できるようにしておく。
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