研究課題/領域番号 |
26420287
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石井 真史 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (90281667)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 希土類 / マイクロ波 / 応答解析 / 雑音解析 / ガラス / 半導体 |
研究実績の概要 |
本年は「フェーズ1:技術確立」として、本来マイクロ波用の材料ではない希土類添加材料についてGHz帯の共鳴吸収測定を実現するために、マイクロストリップライン(MSL)を使ったマイクロ波導入技術を確立した。特に本課題を達成する上で必要な極端条件(主に高温・低温)での測定を可能にするシステムの構築に成功した。高温測定に関しては、50Ωに整合したMSLに微細カットした試料を接続し、その試料部のみに赤外加熱ランプを集光するシステムを試作した(局所加熱法)。本法により、MSLや接続ケーブルはほぼ室温に保ったまま、試料のみのマイクロ波伝搬特性の温度依存を、200℃までほぼ無補正で測定することに成功した。MSLやケーブルを試料と共に高温炉に入れる従来法より、測定精度と安全性を著しく向上できた。また極低温測定に関しては、クライオスタットで15 Kまで冷却しても、約12GHzまで良好に動作するMSL回路を構築できた。この回路で特筆すべきは、従来クライオスタットにMSL回路を導入する際に使用していた真空封止コネクタを一切使わず、コネクタの反射による信号の劣化を完全に防ぐことが出来た点である(フィードスルー法)。 以上のように経過が良好であったため、次年度の計画「フェーズ2:分析法確立」を前倒しして実施した。その結果、既に「応答解析による希土類周辺の局所エネルギー損失の観測」「雑音解析による希土類発光中心への注入電荷の捕獲の観測」などの新奇な分析法を提案するに至っている。実際に、希土類添加硝子や希土類添加半導体に適用し、エネルギーの伝搬や損失の律速要素を調べることを開始している。 更に本年度得られた様々な探査結果をもとに、希土類添加半導体(GaN:Eu)を使った赤色発光ダイオードについて、3倍以上の発光強度増大を実現している。当初計画を上回るペースで成果を得て、論文発表や学会発表も多数行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の研究実績の報告にも概要を述べたとおり、当初の計画を上回るペースで研究結果を得ている。これは、ハードルの低い目標設定を意味するものではなく、独創的なアプローチを重ねてきた結果である。すなわち「フェーズ1:技術確立」に関して、(1)「局所加熱法」は他に例がなく、完全にオリジナルである。また、この手法の背景には試料部のみに高効率の熱循環を施す工夫なども盛り込まれており、緻密な考察と試行錯誤を繰り返してきた結果である。(2)「フィードスルー法」は、知りうる限り真空漏れのないケーブルは存在しない中、特殊な処理を施すことで実現できた。現在、いくつかの会社がクライオスタット対応のマイクロ波プローバーを販売しているが、個別パーツのスペックからシステムの全体のスペックを見積もる例は少なくない。一つパーツが増えるだけで整合が崩れることは珍しくないにも関わらず、温度15Kの達成は意義がある。 前倒しした「フェーズ2:分析法確立」に関しては、(1)「局所エネルギー損失」という、消光要因に直結するパラメータを実測する方法を提案できた点が注目に値する。現在、消光要因は光測定から推察することが主であり、エネルギーフローに注目した新たなアプローチは期待が大きい。(2)「雑音解析」はMOS FETなどの電荷捕獲の観測に用いられる例はあるが、発光中心の電荷捕獲に用いられた例はない。また、発光前の過程を取り上げて効率を議論することは、これまで無かったが、理にかなった挑戦的なものとして評価できる。 現段階で既に、希土類添加型の発光ダイオードの強度を著しく増すことに成功しており、本課題の最終的な狙いの中心を突いている。発表も多く到達度は高いといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り「フェーズ2:分析法確立」を27年度に展開する。上述の通り、本フェーズは前倒しして実施しているが、分析法としての信頼性を高めるため、検証を重ね、そのあとの実際の注目材料への適用につなげてゆく。 電気応答と光応答の併用など、いくつか新たな手法の提唱も計画しているが、いずれも最終的な狙いとしては、当初の予定通り、希土類が周辺とエネルギー授受を行うナノ領域をナノクラスタとして捉え、その希土類添加ナノクラスタ内のエネルギー相互作用を定量化し、その要因を探ること、時間軸上でこれらの作用の位置を明らかにして、ダイナミクスという観点で律速過程を特定すること、に集約される。材料に即した手法を選び、初年度構築した計測システムを活用する計画である。 最終年度では、いくつかの他機関から提供いただいた材料について順次手法の適用を進めてゆく予定であるが(フェーズ3:応用)、既にフェーズ2を前倒しして実施していることも考慮して、先行実施できるものは適宜進め、課題の成果を最大にする。特にGaN:Euは発光ダイオードとして既にプロトタイプができており、本研究との共同作業を以て発光効率を高めることを、可能な限り早期に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、招待講演で旅費の一部をサポートいただくなど、経費節約できた。次年度以降の発表などに関する経費を考え、一部を繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費やその他(英文校閲など)、主に発表に関して必要となる経費として使用を計画している。
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