研究課題/領域番号 |
26420289
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
吉越 章隆 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (00283490)
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研究分担者 |
寺岡 有殿 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (10343922)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Ge単結晶表面 / 酸化反応 / 超音速分子線 / 放射光 / 光電子分光 / その場観察 / 表面 / 反応ダイナミクス |
研究実績の概要 |
スマートフォン等に見られるように最新の情報通信関連機器の発展は目覚しく、それに伴い基幹となる超大規模集積回路(ULSI)中の基本素子である金属-絶縁膜-半導体電界効果トランジスタの更なる高性能(小型・高機能・省電力)化が必須となっている。ポストシリコン技術の一つとしてチャネル材料にSiより移動度などで優れたGeを利用することが注目されている。しかし、その利用にはGe表面に高品質なGe酸化膜を形成することが不可欠である。本研究では、超音速分子線技術を用いて酸素分子の並進エネルギーを選択(最大2.3eV)することで、熱反応では実現できない酸素とGeの化学結合状態を選択的に制御した酸化膜形成とそのメカニズムの解明に挑戦している。 典型的な低指数面であるGe(100)2x1およびGe(111)c(2x8)清浄表面に対して、GeO脱離が無視できる室温酸化の条件を調べた。放射光を光源とする光電子分光を用いた”その場”観察によって、酸素曝露の条件では両表面とも酸化価数が2価にとどまることを明らかにした。この結果は、これまでSi表面酸化と同じと考えられてきたGe表面の酸化に対する常識を覆す画期的な実験結果であるとともに、Ge表面の特異性を示す極めて重要な知見となった。さらに、酸素分子の並進エネルギーを2.3eV程度に増加することによって、酸素吸着量の促進とともに形成される酸化物の構造に違いが現れることを明らかにし、極薄Ge酸化膜の形成機構の詳細に明らかにできた。これらの成果は、Geを利用した次世代デバイスの作成における表面ナノプロセス開発に対して重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の期待通り、超音速酸素分子線による酸素吸着量あるいは酸化速度の増加などの酸化促進現象を見出すとともに、Ge(100)2x1表面に対しては反応サイトを特定することができた。Ge(111)c(2x8)表面に関しては、並進エネルギーによる吸着促進の閾エネルギーを明らかにするとともに、Siや他に固体表面ではこれまでに報告が無い並進エネルギーによる酸化価数変化も捉えることに成功した。上記の並進エネルギーによる酸化に加えて、当初予想もしなかった曝露酸化による酸化価数が2価にとどまるという、Si酸化では説明できない常識を覆す結果を明らかにすることができた。 以上の成果は、放射光光電子分光によるその場観察、表面処理および超音速分子線を用いた表面反応実験などの基本的な実験技術の開発および習得をさまざまな反応系に対して内外の研究者とともに絶え間なく進めてきた結果と考えている。さらに、Ge単結晶と類似の結晶構造を有するSi単結晶の表面酸化研究を継続的かつ発展的に進めてきたことが、Ge表面酸化反応の特徴、特異性を見出すことに繋がったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
曝露酸化による酸化物の構造モデルをGe(100)2x1表面に対して提案した。Ge(111)c(2x8)表面に対しては、吸着サイトの候補がいくつかあるため、吸着サイトが未確定である。今後、酸素の内殻準位(O1s)スペクトルの詳細な解析から酸素吸着サイトに関する情報を得るとともに、安定構造のモデル計算を理論グループと連携することで明らかにしたい。また、酸化価数が2にとどまる原因として、酸素吸着の進行とともに酸化抑制が起きる、つまり吸着ダイナミクスの視点で見直すと、吸着バリアーが形成されると考えられる。この点も理論グループとの緊密な連携によって明らかにしたい。
Ge酸化物はSi酸化物に比べて熱的・化学的に不安定であり、それがGeをデバイスに応用することを妨げる一因と一般に予想されている。一方で、大気中に曝されたGe表面にはGeO2酸化物が形成されることが広く知られている。しかし、例えば大気中で形成される酸化物の厚さ、化学結合状態およびその生成過程については未解明の部分が多い。そこで、大気中で清浄表面に生成する酸化物の分析および形成過程の解明に挑戦したい。曝露酸化に比べて、酸素分子の並進エネルギーによる酸化では、酸化物あるいは配位数に違いがあるので、これらの酸化物が大気中の酸化に対して異なる振る舞いを示すと予想している。今後は、Ge(001)-2×1およびGe(111)-c(2×8)清浄表面あるいはそれらの飽和酸化面を大気に曝した際に形成される酸化物の放射光光電子分光による分析を調べ、大気下でのGe酸化物の変化の原因を明らかにしたい。超音速酸素分子線によって作成された酸化膜の大気曝露に対する優位性の有無を調べることは、Geを用いた次世代デバイスの実用化を阻む酸化膜の不安定性を解決する手がかりになると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
為替変動等により、外国出張に関して当初予定していた額より幾分低く済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
為替や物価変動に適宜組み入れて有効に支出する。
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