研究課題/領域番号 |
26420292
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
今井 康彦 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (30416375)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロ回折 / マイクロX線回折 / X線 / ナノビーム回折 / 逆格子マップ / 放射光 |
研究実績の概要 |
X線回折の空間分解能100 nmオーダーでの実空間マッピングを試料表面の形状に依らず実現することを目的として、試料表面を常にゴニオメーターの回転中心に合わせておくために必要な技術開発を行った。具体的には、小スポットの高精度レーザー変位計を導入し、表面に凹凸のある試料を表面内(y,z方向)で並進移動させたときに、試料表面の高さが表面法線方向(x方向)にどれだけ変化するかを測定するシステムを開発した。 ビームサイズ100 nmと同程度の空間分解能でX線回折を測定するためには、試料表面を3 μm程度の精度でゴニオメーターの回転中心に合わせる必要がある。表面が回転中心からずれた状態では、X線回折の測定の際にX線の照射位置がずれていくため、必要な空間分解能が得られない。したがって、試料上の測定位置をゴニオメーターの回転中心に精度良く合わせる技術が必要となる。一般に、表面が平らな試料の場合は、試料によるX線の半割によってこれを実現する。しかし、基板上の厚膜試料の破断面など、測定面が平らでない場合には半割の手法は使えない。そこで本研究では、半割ではなく、レーザー変位計を用いて試料表面の変位を測定することによって、任意の形状の試料表面をゴニオメーターの回転中心に合わせるシステムを開発している。 マイクロX線回折装置は試料周りの空きスペースが非常に狭いため、X線回折の測定とレーザー変位計による変位の測定を同時に行うことは困難である。レーザー変位計がX線のパスを遮ってしまうためである。そこで、オフラインに用意したマイクロ回折装置と同等のゴニオメーターにおいて変位測定のシステムを構築した。オンライン・オフラインのゴニオメーターは、回転中心に対するステージの位置の同期をとり、オフラインで測定した変位の値を用いて、オンラインでの試料位置を補正することができるようにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的を達成するため、おおむね当初の研究実施計画のとおりに研究は進んでいる。 小スポットの高精度レーザー変位計を導入し、表面に凹凸のある試料を表面内(y,z方向)で並進移動させたときに、試料表面の高さが表面法線方向(x方向)にどれだけ変わるかを測定するシステムを開発した。レーザー変位計による変位の測定は、表面が平らではない試料の表面をゴニオメーターの回転中心に合わせるために必要な技術である。10 nmの変位分解能で、1 x 1.1 mm2 のエリアを 2 μm間隔で測定するのに要する時間は約20分である。レーザー変位計は試料表面のレーザーの反射率の違いを考慮して、正反射利用タイプと、拡散反射利用タイプの両方を整備した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた結果をもとに、試料位置を補正するシステムを完成させる。超音波モーター駆動の小型ステージを導入し、オフラインのレーザー変位計で測定した変位と基準位置との差を補正するように、試料のx方向の位置を自動で制御するフィードバックシステムを開発する。 変位の補正は、次に示す2段階で行う。1)試料をゴニオメーターにマウントした後、試料上のある1点に対して、基準位置とのx方向の差を補正する。この操作によって、その1点が、ゴニオメーターの回転中心に合わせられる。2)試料をy,z方向に並進移動させると、試料表面の凹凸に応じてx方向に変位が生じる。そこで、この変位を打ち消すように小型ステージでx方向の位置を、予めオフラインで測っておいた値を使って自動補正する。基準位置の値は、平らな表面をもつSi標準試料を用いて求める。Si標準試料は、ビームの半割によって表面をゴニオメーターの回転中心に合わせた後、レーザー変位計によって距離を測定し、その値を基準とする。導入する予定の超音波モーター駆動小型ステージは、エンコーダーを内蔵し、100 nmの分解能があるため、性能としては十分である。 オンラインとオフラインのステージ位置は1 μm程度の精度で同期をとる必要がある。しかし、ゴニオメーターヘッドのマウントに用いているキネマティックマウントは、位置再現性に課題があることが分かった。そこで、高精度なマウントを開発すると共に、基準となる試料上の位置は、レーザー変位計とX線の両方で見ることが出来るように工夫することを考えている。例えば、蛍光を発するような金属を付けておくようにすれば、十分な精度で同期をとることが出来る。 フィードバックシステムを完成させた後、実試料への適用を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の過程において、ゴニオメーターヘッドをゴニオメーターにマウントするために用いているキネマティックマウントに必要な精度が出ていないものがあることが判明した。レーザー変位計を用いた測定ではじめて分かったことである。マウントの精度はオンラインとオフラインステージ位置の同期精度に影響を与えるため問題となる。そこで、この影響を回避するため、マウントの精度に依らず試料上の位置決めを可能にする方法を検討している。試料上に目印を付ける方法である。また、目印を付けることが困難な試料にも対応するため、新たに高精度マウントの開発も検討している。超音波モーター駆動ステージのマウントを設計する前に、これらの検討を行ってきたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
高精度マウントを開発し、このマウントと組み合わせて使えるように超音波モーター駆動ステージを導入する。これによって、レーザー変位計で測定した変位の値を用いて、試料表面位置をゴニオメーターの回転中心に合わせることが出来るようになる。
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