研究課題/領域番号 |
26420295
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
高橋 豊 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (00260456)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁気記録 / 強磁性共鳴 / 磁気緩和係数 / 3d強磁性遷移金属 |
研究実績の概要 |
SpinRAMに代表されるスピン制御磁気デバイスの動作に重要な磁気緩和係数(Gilbert緩和係数alpha)と磁気異方性係数(Ka)の関係及びこれらの物理的起源を明らかにするために、Feをベースとした3d遷移金属合金系を対象に、結晶構造、スピン軌道相互作用、フェルミ面近傍の状態密度、電子散乱頻度がこれら2つの係数にどのようにかかわってくるかを検討している。 GaAs基板上に成膜したままのFe(1-x)Co(x)as-depo.薄膜と成膜後にアニーリングを施したannealed薄膜(x < 0.11、膜厚12 nm)を用意し、室温でそれぞれの試料の面内電気抵抗率と磁気緩和係数を測定した。金属の電気抵抗率は古くから研究がおこなわれてきており、電子散乱頻度がその大きさを決定する重要なパラメータであることが確立している。今回の測定ではいずれの組成の試料でもannealed膜のほうが抵抗率が小さくアニーリングにより結晶性が向上して欠陥等による電子散乱頻度が低下したことを示している。磁気緩和係数も一部の組成を除いてannealed膜で低下する傾向を示している。このように抵抗率と強い相関を示すことから磁気緩和係数は電子散乱頻度に依存していると考えられ、これは理論計算からの結論とも合致している。 ただし今回の測定は室温で行ったため(as-depo膜とannealed膜に同じように寄与する)フォノン散乱が支配的で、アニーリングによる散乱頻度減少はわずかであった。フォノン散乱の寄与を除くためは液体窒素温度付近での測定が必要なので、低温での電気抵抗測定用デュワーを準備し、低温で薄膜の抵抗率が測定できることを確認した。 今後は低温で電気抵抗率を磁気緩和係数を測定し、電子散乱頻度と関連をより明確にする計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は成膜用rfマグネトロンスパッター装置、磁化測定用試料振動型磁束計、強磁性共鳴装置に故障が頻発して、試料の作製とその測定に遅れが生じた。特にスパッター装置の成膜条件が変わってしまい、これまでと同等の結晶薄膜を作製するための条件を再び決定するのに時間を要してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
磁気緩和現象に関係する物理的メカニズムを明らかにするために3d強磁性遷移金属であるFeをベースにCo等を微量添加したエピタキシャル薄膜をGaAs上に作製して強磁性共鳴を利用してその共鳴線幅から磁気緩和係数を測定している。特に現在は成膜したままの試料(as-depo.膜)と成膜後にアニーリングを施した試料(annealed膜)を比較することにより膜内での電子散乱の頻度が磁気緩和に与える影響を検討している段階にある。電気抵抗には電子散乱が寄与することがよく知られているが、この電気抵抗率測定と比較することにより、電子散乱が磁気緩和にどのように寄与するか定量的に評価する。本年度は予備的な実験として両者を室温で測定した。しかし室温ではフォノン散乱からの寄与が支配的であるためにas-depo.膜とannealed膜の差はわずかであった。試料を液体窒素温度程度まで冷却することによりフォノンの影響を除くことができればas-depo.膜とannealed膜の違いはより明瞭になると期待されるので、低温での測定の準備を行っている。 また、添加する元素の種類を変えることにより、薄膜のスピン軌道相互作用、フェルミ面近傍の状態密度を変化させた場合の磁気緩和および磁気異方性の変化を測定する計画で、このためにNi等の他の3d遷移金属を添加した薄膜の成膜を行う。
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