研究実績の概要 |
MRAM, SpinRAM等のスピン制御磁気デバイスではその材料・構造の選択においてGilbert磁気緩和係数と磁気異方性係数が重要な要素となっており、これらのパラメーターの物理的起源を明らかにすることが必要とされる。理論研究によると結晶構造、スピン軌道相互作用(SOI)、フェルミ面近傍の状態密度、電子散乱頻度等との関連が指摘されている。前年度の研究においてFe(94%)Co(6%)単結晶薄膜を試料として室温領域と低温(77K)における電気抵抗率と磁気緩和係数を測定して磁気緩和と電子散乱の関連を検討し、理論の予想に一致していることを示すことが出来た。 引き続き今年度は磁気緩和係数とSOIの関係を検討するため、試料としてFeをベースとしてこれにSOIが大きい元素として知られる白金(Pt)を添加した薄膜、逆にSOIの小さいホウ素(B)を添加した試料を作製した。FePtに関しては膜厚12nmでPtの原子数組成が3%, 5%, 8%の薄膜を作製し、いずれの組成でも基板に整合したエピ膜であることを確認した。VSMで測定したヒステリシス曲線からみると面内磁気異方性はPt組成が大きくなると減少している。Pt濃度は規則化合金を形成するほど大きくはなく、むしろ微量のPt添加によりFe結晶が不規則になり異方性が低下していると考えられる。原子としてのSOIが大きいPtを添加しているが、これが結晶としての磁気異方性には直結しない。Pt添加が磁気緩和にどのような影響を与えるか興味が持たれる。一方FeB薄膜はこれまで使用してきたGaAsではなく、(SOIの影響が小さいと期待される)MgO基板上に作製した。成膜時の基板温度を制御して作製を試したいくつかの試料をX線回折法により測定した結果、基板温度セ氏400度の場合にFeB(001)が成長していることが確認できた。
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