本研究では神経細胞と直接やりとりを行う人工シナプス実現に向けてLSI設計を行った。膜電位固定法と呼ばれる手法を再現しており、細胞のイオンチャネルを通過する電流を取得するものである。その膜電位固定法に必要となる高倍率の電流電圧変換器を設計し50MΩフィードバック抵抗を標準CMOSプロセスを用いてオンチップ上に作成することにより低ノイズかつ高倍率を実現した。ポリ抵抗で実現した高抵抗は基板と容量結合し周波数特性を悪化させ、帰還容量のサイズによって発振を引き起こす。この問題を抵抗下のウェル電位を駆動することにより見かけの寄生抵抗を除去し安定かつ所望帯域(高域側7kHz から10kHz)を確保することを達成した。この方式は他研究機関(Yale Univ.)がSOS(サファイア)基板を用いて実現したものと比較し高倍率かつ安価となっている。入力換算雑音は2μpArms 以下の実測時を得た。 また、複数チャネルでシナプスとしての働きを実現するため多チャネル化に取り組んだ。5mm角のチップに16チャネルの増幅器を搭載したオンチップパッチクランプシステムを設計した。増幅率、帰還容量、補償回路、フィルタ周波数特性を可変としデジタル信号によって制御可能となっている。デジタル制御によりシステム統合が容易となっているため、4チップ64チャネルといった構成も実現可能である。 さらに、チャネル間のプロセスばらつきによる周波数特性を自動構成可能にするシステムを提案した。パルス波を内部的に生成しそれを信号経路に通すことにより周波数特性を同定し外部デジタル制御機器により校正可能な構成となっている。小電力パルス回路は疑似抵抗のバイアス電圧を調整することにより3.6nAから78nAの電流パルスを生成可能であり、所望の特性を得ている。
|