研究課題/領域番号 |
26420319
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
上野 和良 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10433765)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 化学的気相成長 / 固相析出 / アニール / 電流ストレス / 配線 / 膜質向上 / エレクトロマイグレーション |
研究実績の概要 |
多層グラフェン(MLG:multilayer graphene)は電子材料として、電荷キャリアの散乱が少ないことによる低抵抗の可能性や、融点が高く熱的に安定なことから、大電流に対する高い耐性が期待されている。このようなMLGを、デバイスに応用するためには、MLGの特徴である低抵抗を引き出すための膜質(結晶性)の向上と、デバイス作製上必要になるプロセス温度の低温化という相反する要求(トレードオフ)を解決する新しいMLG成膜プロセスが必要である。本研究は、電流ストレス印加という新規のアプローチで、従来の熱エネルギー以外の電流の作用により、このトレードオフを解決するものである。 昨年度までに、熱CVDによるMLG成膜において、基板温度を変化させて、電流印加の有無による膜質比較を行い、電流によるジュール加熱効果以上に、膜質が向上できることを確認できた。今年度は、電流のどういう作用によって膜質向上が実現されたのかを明らかにするため、CVDに用いるコバルト(Co)触媒に電流が与える影響と、MLG成長速度(粒径)に電流が与える影響を調べた。その結果、予測に反してCo触媒への電流の影響は明確に見られない一方で、MLGの粒成長の活性化エネルギーに差が見られた。また電流印加を行ったCVDでは、MLG成長の活性化エネルギーとして、Co上の炭素の表面拡散の活性化エネルギーとほぼ等しい値が得られた。以上の結果から、電流印加CVDにおけるMLG膜質の向上では、MLG成長の反応過程に電流が作用して、MLGの粒成長促進につながったと考えられる。 また本年度は、Co触媒からの固相析出法によるMLG形成において、CVDと同様に電流印加によって、ジュール熱以外の効果により析出するMLGの膜質が向上することがわかった。今後、MLG固相析出における電流の作用を明らかにし、さらに膜質の改善につなげることが課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の今年度は、当初の予定通り、電流を印加した熱CVDについて、電流の作用を明らかにする実験を行い、当初の予測に反して、電流がMLG成長の反応過程に作用していることを明らかにした。その結果を、国内および国際学会で発表し、さらに論文誌に投稿し、採択掲載された。また、電流印加アニールについても、熱CVD同様に、電流印加によって、固相析出により形成されるMLGの膜質(結晶性)が向上できることを示し、その結果を国内および国際学会で発表し、論文誌に投稿した。このように、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、固相析出法においても、CVDと同様に電流印加の効果が得られたが、今後、電流の作用を明らかにして、さらに膜質を改善することが課題である。また、膜質改善によるMLG膜の抵抗低減の検証が課題である。固相析出法では、絶縁膜上に転写することなくMLG膜を形成することができるため、デバイス応用や配線抵抗の評価の観点から有利である。そこで平成28年度は、電流印加アニールによって、絶縁膜上に直接、膜質の良いMLG膜を形成するプロセス条件を見出し、その条件で形成したMLG膜を用いてシート抵抗を評価し、本研究の目的である低温プロセスによる低抵抗MLG膜の実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施に当たり実験資材の購入や外部への依頼分析(主にTEM)を行ったが、TEM分析は、1サンプルあたり数万から数10万円程度かかり、また実験資材も数万円のものが多いため、端数が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度交付される予算と合わせて、実験に必要な資材の購入や依頼分析の費用に充てる予定である。
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備考 |
芝浦工業大学工学部電子工学科ナノエレクトロニクス研究室ホームページ http://www.nel.ele.shibaura-it.ac.jp/
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