研究実績の概要 |
多層グラフェン(MLG)は、電子散乱が少なく、電流密度耐性が高いという特徴から、ナノサイズの集積回路の低抵抗配線や、高電流が流れる電極・配線の材料として期待される。一方、低抵抗配線を実現するためには、MLG膜の結晶性改善が重要であり、従来は1000℃程度の高温プロセスを必要としてきた。デバイス適用に向けてプロセスの低温化が望まれ、本研究では、加熱と同時に電流を印加することで、低温で結晶性の良いMLG膜を実現する新プロセスを検討している。昨年度までに、Co触媒を用いた電流印加CVDにおいて、結晶性向上への電流の作用について、電流がMLG生成反応に作用していることを明らかにした。さらに、電流印加プロセスを固相析出にも適用した。固相析出法では、絶縁基板上に直接MLG膜を形成でき、よりデバイスへの適用に適している。炭素(C)を添加したCo(Co-C)からのMLG固相析出では、加熱中の電流印加により結晶性が改善したが、同時にCoの凝集が生じ、均一な膜にならない問題が生じた。そこで、Co凝集を抑えるCuキャップ構造(Cu/Co-C)を用いて、膜の水平方向に電流を印加したが、印加した電流が抵抗の低いCu層を流れ、触媒のCo-C層中の電流が減り、十分な効果が得られなかった。そこで、膜に垂直方向に電流を流したところ、電流量によっては結晶性が大きく改善する結果が得られた。本年度は、その作用を詳しく調べるために、電流印加CVDと電流印加固相析出で、結晶性改善が得られた時の電流密度を調べた。その結果、CVDと固相析出とに共通に、ある電流密度以上の電流が流れたときに、結晶性が大きく改善することがわかった。またMLGの配線・電極応用として、GaNダイオードやSi貫通ビア(TSV)への応用を検討し、成果の論文発表、国際会議(国際固体素子材料コンファレンス,SSDM2018)への論文投稿を行った。
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