研究課題/領域番号 |
26420330
|
研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
鵜澤 佳徳 独立行政法人情報通信研究機構, テラヘルツ研究センター テラヘルツ連携研究室, 室長 (00359093)
|
研究分担者 |
小嶋 崇文 国立天文台, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (00617417)
牧瀬 圭正 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所 ナノICT研究室, 研究員 (60363321)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | テラヘルツ / 超伝導 / 窒化ニオブチタン |
研究実績の概要 |
本研究は、我々がこれまで開発してきたテラヘルツ帯における世界最高性能の超伝導SISミキサをさらに改良し、検出器としてSIS接合自身が潜在的に有する量子力学的極限の雑音性能まで高めることを目指している。このために、現在ミキサの高周波回路の一部に用いている常伝導金属(Al)を、高品質な超伝導材料(NbTiN)で置き換えることにより回路を無損失化すると同時に、このNbTiNとSIS接合のNbを接続した際のエネルギーギャップ差によってNb電極中にトラップされる過剰準粒子を新たなデバイス構造で低減する。2014年度は、高周波回路部に用いる高品質なNbTiN薄膜を獲得するため、その作製と高周波特性評価を実施した。また比較のため、これまで用いてきたAl薄膜の高周波特性評価も実施した。まず、伝送線路としてNbTiNを導体部、SiO2を絶縁層としたマイクロストリップ線路(NbTiN/SiO2/NbTiN)を水晶基板上に形成することを目指し、水晶基板上にNbTiNをスパッタ成膜したサンプル(下部導体を想定)、水晶基板上にSiO2をスパッタ成膜した上にNbTiNをスパッタ成膜したサンプル(上部導体を想定)を準備した。また、水晶基板上に真空蒸着したAlのサンプルも準備した。次に、これらのサンプルについて透過型のテラヘルツ時間領域分光装置を用いて導電率の特性評価を行った。NbTiNについては、転移温度以上の導電率が、水晶基板上の薄膜よりスパッタ成膜のSiO2上で薄膜の方が低い傾向にあったものの、超伝導状態では両薄膜とも1 THzを超える明瞭なギャップ周波数を観測し、ストリップ線路として同周波数まで極めて低損失となる可能性を明らかにした。Alについては、室温から極低温までのテラヘルツ帯における導電率の測定に成功し、直流における導電率の温度依存性とほぼ同一であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子力学的極限の雑音性能を得るためには、まず高周波回路に用いる伝送線路が極めて低損失であることが必要条件となる。これまでのミキサはNbTiN薄膜を水晶基板上に成膜したグランドプレーンとして用いてきており、テラヘルツ帯で極めて低損失であることが分かっている。しかしながら、NbTiN薄膜をマイクロストリップ線路のストリップ部としても用いる場合は、絶縁膜上に成膜する必要があり、この高周波特性をこれまで明らかにした例はない。したがって、絶縁層であるSiO2薄膜上のNbTiN薄膜の超伝導状態における高周波特性評価は、本研究では極めて重要な要素の一つである。このため、厚さ1 mmの水晶基板上に厚さ100 nm程度のSiO2薄膜をRFマグネトロンスパッタによって成膜し、その上に厚さ120nm程度のNbTiN薄膜を反応性DCマグネトロンスパッタによって成膜した。これをクライオスタットに取り付け、透過型テラヘルツ時間領域分光装置に設置し、常伝導と超伝導状態での導電率特性を調べた。比較のために水晶基板上のNbTiNも同様の測定を行ったところ、両膜とも超伝導状態のギャップ周波数以下では極めて高周波損失が低いことが明らかとなり、本研究の進展に必要かつ重要な条件が得られたといえる。常伝導導電率に違いがあることも判明し、NbTiN薄膜の下地のラフネスの影響であると考えている。また、新たなデバイス構造の一部に用いるAl薄膜についても同様の測定を行い、テラヘルツ帯でも直流特性と同一の特性になることを明らかにした。NbTiN薄膜やAl薄膜の高周波特性評価などについての成果を学術論文にまとめて投稿し、IEEE Trans. Appl. Supercond.に掲載可(電子版では掲載)となった。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度で、本研究を推進する上で根幹の一つとなる低損失なNbTiNの獲得に成功したことにより、2015年度はNbTiNをマイクロストリップ線路の両導電体に用いたデバイスの試作に着手する。引き続き、SiO2上のNbTiN薄膜の常伝導導電率を支配している要因を探ると共に、作製したデバイスのI-V特性評価などを通じて、デバイス作製プロセスにフィードバックをかけ、作製プロセスを確立する。直流および高周波信号照射のI-V特性上に現れるSIS接合における過剰準粒子による加熱効果を検証することにより、過剰準粒子に対する知見を高める。同時に、この局所的な加熱効果の抑制に効果的なパラメータを実験的に抽出し、デバイス構造の設計指針を得る。最終年度には、それまでに獲得した知見、技術をミキサ設計に反映させ、ミキサの作製、高周波特性評価を行うことによって、従来型に対する有効性を明らかにする。得られた成果を順次取りまとめ、国内外の学会発表や論文発表を行う。2015年度は、名古屋で開催される15th International Superconductive Electronics Conference (ISEC 2015)等で成果発表を行う。
|