研究課題/領域番号 |
26420332
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
永瀬 成範 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (80399500)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム / 共鳴トンネルダイオード / 双安定性メカニズム / 集積型アンテナ / テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
本提案では、窒化ガリウム系半導体を用いた共鳴トンネルダイオード(GaN系RTD)を実現し、高性能なテラヘルツ波発振器を実現することを目的としている。GaN系RTDは、ワイドバンドギャップ、高いバンド不連続性、高速トンネル時間等の広帯域・高出力テラヘルツ波発振に有利な物性を持つ反面で、特有の結晶欠陥や分極が存在する為に微分負性抵抗(NDR)を得にくいという欠点を持つ。これまで、提案者らは、高品質なGaN系RTDを作製し、良好なNDRを得ることに成功していた。本年度は、GaN系RTDの更なる高品質化と数値計算の高精度化に取り組み、長年未解明であったGaN系RTDで生じる双安定性と電流電圧特性の劣化メカニズムを解明することに成功した。GaN系RTDでは、良好なNDRが観測されるものの、順方向電圧の印加方向によって電流電圧特性が異なるヒステリシス(双安定性)が生じることや、繰り返し測定とともに電流電圧特性が劣化することが知られていた。これらの現象は、テラヘルツ波発振には不利な現象であるため、メカニズムの解明が最重要課題であった。これまで、国内外の多くの研究者が、メカニズムの解明に取り組んだが、十分な結論を出すことはできなかった。本研究では、GaN系RTDで生じる双安定性が、量子井戸でのサブバンド間遷移と電子蓄積効果に起因することを明らかにし、更には、繰り返し測定とともに生じる電流電圧特性の劣化が、GaN系RTDのバリア層での深い準位に起因していることを解明した。これらの解明により、テラヘルツ波発振を可能にするGaN系RTD実現の目処が付いた。今後は、解明したメカニズムを基に、双安定性抑制と安定動作に向けたGaN系RTDの最適設計に取り組むとともに、テラヘルツ波発振に向けたアンテナ設計を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長年未解明であったGaN系RTDで生じる双安定性や電流電圧特性の劣化メカニズムを解明できたことは、テラヘルツ波発振可能なGaN系RTDの実現に向けて、大きな成果であったと考えている。また、GaN系RTDで生じる双安定性のメカニズムを解明できたことで、テラヘルツ波発振器以外の新たなデバイス応用も見出された。新たなデバイス応用に関する論文等は、本研究課題の最終目標に関するものではないが、本研究課題に係る研究成果として登録した。
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今後の研究の推進方策 |
GaN系RTDによるテラヘルツ波発振器を実現するには、GaN系RTDでの双安定性抑制と安定動作が必要である。次年度は、解明したメカニズムを基にしたGaN系RTDの最適設計と、GaN系RTDの更なる高品質化に取り組むことで、双安定性抑制と安定動作実現を試みる。また、これと平行して、アンテナ構造設計とプロセス開発に着手し、最終年度までのGaN系RTDによるテラヘルツ波発振器実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
GaN系RTDによるテラヘルツ波発振器を実現するには、GaN系RTDでの双安定性抑制と安定動作が必要である。研究開始時には、双安定性とデバイス劣化のメカニズムが不明であり、窒化物半導体特有の結晶欠陥や分極を抑制することが必要であると考えていたために、低欠陥GaN基板や無極性GaN基板を用いた新たな結晶成長技術を確立する必要があると考えていた。しかし、GaN系RTDで生じる双安定性とデバイス劣化のメカニズムが明らかになり、これまでの結晶成長技術を基にしたGaN系RTDの構造最適化によっても、双安定性抑制や安定動作を実現できる可能性が出てきたことから、本年度の低欠陥GaN基板や無極性GaN基板の購入数量を最低限にした。このため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、まず、これまでの結晶成長技術と解明したメカニズムを基にしたGaN系RTDの構造最適化により、双安定性抑制と安定動作を実現できるかを調べる。この方法がうまくいった場合、低欠陥GaN基板や無極性GaN基板上にRTDを形成する新たな結晶成長技術を確立する必要がなくなることから、効率良く研究を遂行できると考えている。しかし、この方法がうまくいかない場合には、翌年度分として請求した助成金と合わせて、低欠陥GaN基板や無極性GaN基板を追加購入し、GaN系RTDの新しい結晶成長技術確立に取り組むことも検討している。
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