サブバンド間遷移による通信波長帯での光検出を目指し、全光スイッチで実績のある結合量子井戸構造を利用して光検出器の作製を行った。通信波長帯でサブバンド間遷移による光吸収が得られる結合量子井戸構造は分子線エピタキシ法によって成長した。成長した結晶から素子構造を作製して室温で電流―電圧特性を評価すると、当初の目論見と異なり多めに暗電流が流れた。フェルミエネルギーとバリア高さを考慮し計算すると、既存の検出器よりバリア高さはあるものの、室温において十分低い暗電流を得るためには障壁高さが足りないことがわかった。このことが原因で光検出が実現できなかった。そこで、近年研究が盛んになってきている量子カスケード検出器の作製を試みた。量子カスケード構造は光吸収をする量子井戸の励起準位からフォノンエネルギー程低い量子準位を持つ量子井戸を隣に段々に配置し、カスケード構造を取ることが特徴である。フォノン散乱によって効率良く隣の量子井戸に励起した電子を取り出すことで、バイアス印可無しで光電流が得られる。しかし、こちらでも所望の特性は得られなかった。そこで、量子井戸構造の設計の確かさ、設計通りに構造が出来ているかどうかの確認を行った。その結果、結晶成長時に発生する相互拡散により量子井戸構造が崩れ、量子準位に変調がかかっていることがわかった。従って、複雑な量子構造を作製する場合には相互拡散の影響も加味しなければいけないことがわかった。
|