研究課題/領域番号 |
26420336
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
八巻 俊輔 東北大学, サイバーサイエンスセンター, 助教 (10534076)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 方向統計学 / 位相限定相関関数 / 信号マッチング |
研究実績の概要 |
本研究では,位相限定相関(POC: Phase-Only Correlation)関数を用いた信号マッチング技術の理論的な妥当性および性能限界を明らかにすることを目的としている.さらに,方向統計学に基づくPOC関数の新たな統計的解析法を確立することをめざしている. 今年度は,まず位相スペクトル差がvon-Mises分布に従うと仮定した場合のPOC関数の統計的性質を明らかにした.von-Mises分布は,方向統計学において広く用いられる代表的な円周確率分布のひとつである.von-Mises分布の集中度に関して,POC関数のピークの期待値は単調増加し,分散は単調増加することを示した.この成果は,これまで経験的に知られてきたPOC関数の統計的性質について,理論的な根拠を与えている. 次に,光ファイバのような非線形位相特性をもつ伝送路を想定し,位相スペクトル差を2次位相CAZAC系列と仮定した場合のPOC関数の統計的性質を明らかにした.POC関数の形状はCAZAC系列のパラメータの組み合わせに依存し,複数ピークをもつ場合があることを示した. 次に,2信号の位相がいずれも変動する場合を想定し,2信号の位相スペクトルを2変量確率変数と仮定した場合のPOC関数の統計的性質を定式化した.位相スペクトルは2変量角度データであるため,方向統計学の概念に基づき,球面上の確率分布として2変量巻き込み正規分布を仮定し,POC関数の統計的性質を定式化した. さらに,信号に白色ガウス雑音が重畳したときの信号の位相スペクトルの変動を定式化し,その位相スペクトル変動がPOC関数に与える影響を評価した.単一正弦波に白色ガウス性雑音が重畳した場合について,位相スペクトル差の確率密度関数を導出し,POC関数の統計的性質を定式化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究活動において,当該年度中に行う予定の研究内容の大半は達成できており,位相スペクトル差がvon-Mises分布に従う場合および2次位相CAZAC系列と仮定した場合の成果については,国内学会でも発表を行った.また,平成26年度に達成した成果のうち,白色ガウス雑音が重畳した場合の成果および位相スペクトルを2変量確率変数と仮定した場合の成果に関しては,平成27年度に国内学会で発表することが決定している.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,平成26年度に行ってきた研究を継続し,POC関数の統計的性質をより広いクラスについて明らかにしていく予定である.具体的には,特定の確率分布を仮定して導出していた統計的性質を一般化し,任意の確率分布に適用できる一般式として導出することをめざす. さらに平成27年度は,POC関数を用いた信号マッチングの性能限界の評価について取り組む予定である.POC関数を用いた信号マッチングにおいて,2つの信号が似ているのか似ていないのかを判定することが大変重要である.実際の生体認証(指紋認証・顔認証など)や信号検出などでは,さまざまなノイズや位相の歪みなどが発生する環境で信号の類似性を判定する必要がある.そのため,どの程度のノイズレベルおよび位相の歪みが許容できるのかを理論的に明らかにしなければならない.本研究では,POC関数を用いた信号マッチング手法の雑音に対する耐性を表す評価指標を導出し,どの程度の雑音が許容できるのかを明らかにすることにより,POC関数を用いた信号マッチングが適用できる範囲を明確化する. POC関数を用いた信号マッチング技術の性能限界が明らかになれば,これまで用いられてきた信号マッチングアルゴリズムの改善の余地が見えてくることが期待される.さらに,方向統計学という新たな概念を導入することにより,これまでとは全く違う観点からPOC関数の解析を行えることが期待される.そのため平成28年度は,平成26年度および平成27年度の研究成果をもとにして,より高精度・高速な信号マッチングアルゴリズムを開発することをめざす.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は予定通り進められたが,当初の見積額よりも安価に購入できた物品等があったため生じたものである.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度請求額とあわせ,次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である.
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