本研究は,少数のパイロット信号を用いて時変スパース通信路を高精度に推定する新しい手法を開発し,その推定性能を明らかにした後,移動無線通信への応用を検討することで,将来の超高速ビットレート無線移動通信のための通信路推定法の基盤を確立することを目的としている.平成28年度は,(1)OFDMにおける時変通信路のブラインド推定法,(2)OFDMにおける時変スパース通信路のブラインド推定法の二点について検討した. (1)について,Leus等によって提案された部分空間に基づく決定論的通信路推定法をOFDMにおける時変通信路へ適用することを検討した.本手法は必要な受信アンテナ数が少なく,推定に利用する受信信号サンプル数が非常に少ないという利点がある.シミュレーションにより,受信SN比が上がるにつれて推定誤差が小さくなることを確認した. (2)について,(1)で検討した手法にL1正則化を組み合わせた新しい通信路推定法を提案した.具体的には,(1)の問題を解く同次連立方程式を非同次連立方程式に書き換え,さらにL1ノルムの項を加えた評価関数を最小化することで,指数関数による基底展開モデルの基底係数を推定する.(1)の手法は通信路長を事前に知る必要があるが,提案手法は通信路長を実際より長く推定している限り優れた推定性能が得られることが特徴的である.シミュレーションにより,スパース通信路において(1)の手法は十分な推定性能がえられないのに対して,提案法は推定性能を大きく改善できることを示した.さらに,正則化パラメータの性能への影響を調べ,それを適切に選ぶことの重要性を確認した.時間シフト数と周波数シフト数は性能へ大きく影響しないため,その選択は敏感ではないことを確認した.
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