研究課題/領域番号 |
26420340
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 健 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (40178645)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ウェアラブル機器 / 人体通信 / ファントム / フロントエンド |
研究実績の概要 |
人体通信とは人体および周囲の空間を伝送路として利用する無線通信方式である.人体通信は,人体周辺の情報機器間の無線通信に関する規格IEEE 802.15.6の中でHuman Body Communication (HBC)として規定されており,技術的には電界通信(Electric Field Communication)として説明され,周波数は21MHzを標準としている.本研究の目的は,短波帯(3~30MHz)における人体通信用送受信機のフロントエンド設計法を確立することである. 平成26年度の研究は,伝送特性測定用送信機/受信機の製作と評価実験用のファントムの製作を中心に進めた.測定用送信機/受信機は電池駆動方式であり,これは人体通信を用いたウェアラブル機器間の伝送特性の測定におけるケーブルや測定機器間の結合による計測誤差を避けるためである.大きさは腕時計サイズとした.送信機と受信機が共に人体上にある伝送に関しては周波数20MHzで測定した結果,減衰は人体と電極の接触条件により異なり-53dB~-62dBの範囲で変化し,最大の伝送効率-53dBは送信機が両電極接触,受信機が信号電極のみを接触させる条件で得られた.人体上の送信機から指先で触れる人体外部の据置型受信機への伝送特性は周波数5MHz,10MHz,20MHzで測定し,受信機側から見た信号源としての人体の出力インピーダンスを測定した結果,5MHz~20MHzの範囲で2300Ω付近であった.受信機設計において,受信機の入力インピーダンスをこのインピーダンスにマッチングさせることが設計指針となる.評価実験用ファントムは,過去の研究成果に基づき皮膚,脂肪,筋肉に相当する3層構造のファントムを設計し製作した.来年度以降,本ファントムを用いた評価実験を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画は数値電磁界解析による伝送特性解析と実験用送受信機の製作であった.数値電磁界解析は主として評価実験用ファントムの設計のためのシミュレーション,人体上のウェアラブル人体通信機器間の通信,および手首から据置型機器への伝送特性解析を進めた.実験用送受信機の製作は,電池駆動型送信機と受信機の回路設計,基板設計,および実装を進めた.送信機はコルピッツ型発振回路を用いたものと,発信周波数をマイコンから制御可能なプログラマブル発振素子を用いた2種類を製作した.受信機は微弱無線用集積回路と局部発振にプログラマブル発振素子を用いて受信回路を構成した.受信信号強度計測はRSSIのアナログ出力をAD変換したデータを不揮発性メモリに保存し,測定後にホストコンピュータと受信機のマイコンを接続してデータを読み出す方式とした.これらの詳細設計は当初の研究計画と多少異なるが,実験目的に必要な仕様を満たしている.伝送特性の測定は送信機と受信機が共に人体上にある伝送に関しては周波数20MHz,人体上の送信機から指先で触れる人体外部の据置型受信機への伝送特性は周波数5MHz,10MHz,20MHzで測定し,製作した測定用送信機/受信機が研究に必要な性能を有していることを確認した. ファントムの製作は当初平成27年度の研究計画としていたが,ファントムの電気的仕様や製造可能な業者の選定等を進めた結果,平成26年度中に製作可能な見通しを得たため,製作予定を早めて製作した.ファントムを製作したことにより来年度以降,評価実験に多くの時間を充てることが可能となった. 以上のように実施した研究項目は一部平成27年度分と入れ替える結果になったが,全体としてはおおむね順調に進んでおり,平成27年度以降の研究も順調に遂行可能と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い,人体通信用送受信機のフロントエンド設計に必要な人体と電極のインピーダンス特性,伝送特性の計測を進めていく.特にインピーダンス整合,実質的な消費電力,ノイズおよびシールドの影響,等,条件を周波数ごとに整理し,実用設計に必要な知見を集積する. インピーダンス整合の評価は,電磁界解析によって求めた伝送効率が最大となる電極形状を含む複数の形状の電極を製作し,送受信回路とファントムおよび人体を用いて伝送効率の比較によって行う.またインダクタやトランスを用いて送受信回路と電極のインピーダンスを整合させた回路と不整合の回路の伝送効率を比較し,インピーダンス整合の効果を評価する. ノイズおよびシールドの影響は実用的な機器を製作する上で重要な要素である.人体は導電体かつ誘電体であるため,人体通信において人体は伝送路であるとともに周囲の電磁波を受信するアンテナとしても機能し,その信号は人体通信のノイズになる.ノイズレベルはスペクトラムアナライザによる測定および受信データのエラーレートから推定する.また,ケースのシールドの影響も評価する. これらの実験データと電磁界解析の結果を総合し,短波帯における人体通信機器のフロントエンドの設計法としてまとめていく.
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