研究課題/領域番号 |
26420345
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岩本 貢 電気通信大学, 先端領域教育研究センター, 特任准教授 (50377016)
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研究分担者 |
太田 和夫 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (80333491)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 秘密分散法 / ネットワーク符号化 / 放送型暗号 |
研究実績の概要 |
今年度は本研究を進めるための基盤技術である,秘密分散法(SSS)に関して幾つかの成果を得た. まず,SSSにおける,情報理論的安全性の実現手法について新しい知見を得,国際会議ISIT2014で発表を行った.本研究では,通常の完全秘匿性ではなく,平均化された条件付き最小エントロピーの意味で安全なSSSを新しく定義した.この安全性は,非一様な確率分布に従う秘密情報を(データ圧縮などを経由せずに)直接暗号化する場合には自然な安全性規準の一つといえる.さらに,定義した安全性を満たすシェアサイズの下界を導出し,その下界を等号で達成する実現手法を示した.完全秘匿性に基づく従来の安全性定義と提案した新しい定義を比較すると,後者の方が安全性が緩和されていると考えられるが,実際に,最小エントロピーに基づく安全性規準で達成できるシェアサイズは,完全秘匿性を満たす場合の理論限界より小さく出来ることを明らかにした. 次に,秘密分散法の画像を用いた実現手法である,視覚復号型秘密分散法(VSSS)の現実的な設定下での能動攻撃の可能性を議論した.ここで得られた成果は国際会議ISITA2014にて発表した.本研究では,VSSSに特有の現実的な設定「秘密情報(画像)を計算機ではなく,人間が復号する」という事実に着目した.この設定下で改竄攻撃を考えると,暗号理論の基本法則であるケルクホフスの法則よりも,秘密画像が視認されるとそれを復号画像と考えざるを得ない,という現実的なシナリオの元で解析した.この状況下では,Horngらによって提案された改竄攻撃耐性をもつVSSS [Designs, Codes, and Cryptograhy, 2006] が,容易に(確率1で)改竄できることを示した. また,SSSとVSSSに関する安全性の関係を考察し,IEICE EMM研究会においてチュートリアル講演を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度は,本研究と深く関連する基盤技術である秘密分散法に進展が見られ,幾つかの研究成果を2つの査読付き国際会議で発表し,一件のチュートリアル講演(招待)を行うことが出来た.しかしその結果として,これらの研究成果および過去の成果をマルチキャスト通信に応用する本来の研究の進展が遅れている.研究成果の分量としては順調であるが,申請している計画の達成度という意味で「やや遅れている」とした. 得られた秘密分散法の成果は,それぞれ,秘密分散法に対する,非一様な秘密情報に対する情報理論的安全性とその構築方法,および,改竄攻撃への脆弱性に関する新しい知見をもたらすものであり,今後の研究推進には有用な成果であると考えている.また,チュートリアル講演(招待講演)などを通して,秘密分散法の安全性に関する定式化についても理解をより深めることが出来た.これらの成果をもとに,来年度以降の研究のスピードを上げつつ進めていくことが重要であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた秘密分散法に関する知見は,安全性モデル,攻撃手法という観点で本研究を進めるにあたって重要なステップといえる.この様な結果が先に得られたため,計画時点で先に行う予定であった,構成法とその最適性を議論することと並行して,改竄攻撃を含めたモデルも同時に議論を行う.特に,最終年度に行う予定であった「最新の知見に基づく安全性モデルの定式化」は早めに研究に着手したい. 提案するマルチキャスト型暗号の統合方式を定式化し,平文や鍵のデータサイズに関する符号化効率(平文は長くしたい,鍵は短くしたい)は無理に追求せずに,ネットワーク符号化や秘密分散法の技術を応用して,(条件付き)シャノンエントロピーで定義される安全性のもとで,正確な動作が保証される情報理論的に安全なマルチキャスト方式の一般的構成法を提案する.方式提案にあたっては,はじめから一般性を求めずに,まず比較的小規模で重要なネットワークの例(例えばネットワーク符号化の典型例であるバタフライネットワークなど)から考察を開始し,徐々に一般化を図る.その後,情報理論的な手法を用いて,その際適性を議論する. 平成27年度においてはここまでを到達目標とするが,最終年度に向けて,可能であれば得られた順定理と逆定理のギャップを極力埋めることで,最適かつ一般的な暗号方式を模索する.また,完全秘匿を諦めて,符号化効率を良くする不完全型のマルチキャスト方式についても議論する.これについても申請者が蓄積してきたランプ型(不完全)秘密分散法の知見を有効活用する.不完全型の情報理論的安全性を持つ方式における改竄攻撃については,秘密分散法を含めて先行研究が見られないので,チャレンジングな課題であると認識している. これらの成果を以て最終年度のまとめに繋がるようにしたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表用の旅費を計上していたが,予定より回数が少なかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
成果発表用の国内出張旅費として使用する予定.
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