研究課題/領域番号 |
26420348
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
安藤 彰男 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (00545668)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マルチチャネル音響 / 符号化 / 量子化雑音 / 行列の条件数 |
研究実績の概要 |
アンマスキング雑音は、線形変換した信号をAACなどの聴覚特性に基づく符号化方式によって符号化し、復号後に逆変換を施した場合、復号時にはマスクされていた量子化雑音が、逆変換によってマスキング閾値を超えることによって生じる。この現象の性質を明らかにするための第1段階として、平成26年度は、22.2チャネル音響信号を8.1チャネル信号(家庭用少数スピーカ再生信号)と14.1チャネル補助信号に変換し、全体で1.2Mbpsに圧縮する場合について研究を行った。まずは、独フラウンホーファー集積回路研究所からAACの符号化/復号プログラムを入手し、このプログラムを用いて、変換/逆変換行列の条件数と、ビットレート、量子化雑音の関係を調べた。その結果、8.1チャネル信号に現行の地上デジタル放送と同等以上のビットレート(720kbps, 640kbps)を与え,その分補助信号のビットレートを削減した場合には、変換行列の条件数を8から順次増やしていくと、条件数20程度を境に、量子化雑音が大きく減少し、それ以上の条件数では雑音は一定値以下に抑えられることが分かった。一方で、条件数が大きいと逆行列が不安定になるため、変換行列の条件数は20程度が望ましいとの結論を得た。この結果に基づいて、条件数20の変換行列を利用し、AACと同じ2048サンプルを1ブロックとして、符号化信号を用いてアンマスキング雑音の線形推定処理を行なうMATLABプログラムを開発し、概ね設計した通りに動作することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究環境の整備を一から行なったため、変換行列の条件数と量子化雑音の関係の研究に到達するまでに予想以上の時間を費やしたが、AACと同様なブロック処理を行なってアンマスキング雑音を推定するプログラムの開発まで何とかたどり着いた。一方で、残念ながら研究成果の外部発表までには至らなかった。今まで得られた成果は、平成27年9月に学会発表し、その際に頂いた意見を参考として、更なる改善を図っていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年から8Kスーパーハイビジョンの実験放送が開始され、3Dオーディオ技術のフィールド検証が開始される。当面の22.2チャネル放送は、チャネルごとの符号化方式に基づくが、2020年の東京五輪の際には新たな方式を採用される可能性がある。このタイムスケジュールを勘案し、平成28年度までに、アンマスキング雑音の抑圧法について,その可能性と限界を明らかにし、将来のスケーラブル伝送に備える。 平成26年度の研究により、条件数20程度の変換行列を用いると、量子化雑音が一定値以下に抑えられることが明らかになると共に、その場合の量子化雑音は、あるチャネルの雑音が他チャネルに混入するクロストークタイプの雑音であることが判明した。このタイプの雑音は、白色性の雑音に比べ、符号化信号からの線形推定でモデル化することが容易と考えられるため、まずは平成26年度に採用した線形推定方式を基本として、更なる研究を進めていく。 また、復号側で雑音抑圧を行なうためには符号化側で推定したパラメータを送る必要があるが、そのためのビットレートはできるだけ削減する必要がある。特に、平成26年度は、AACの処理ブロックにあわせて、処理を2048サンプルごとに行なうこととしたが、2048サンプルごとにパラメータを伝送するのは好ましくない。一方で、クロストークタイプの雑音の場合、信号レベルの大きいチャネルの量子化雑音が信号レベルの小さいチャネルに漏れるのが致命的であるが、それ以外の場合については、雑音除去が不要となる感触を得ている。これらの観点から、雑音除去性能を維持しながら、どの程度推定パラメータなどの情報量を抑制できるかについても研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な設備等を購入したが、購入価格が定価を下回ったなどの理由により、1,000円未満の残額が生じた。更なる設備整備を行なうには少ない額であったため、次年度に繰り越すこととしたい。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の設備整備費として活用する。
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