研究課題/領域番号 |
26420353
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西新 幹彦 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (90333492)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 情報理論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は算術符号の演算精度と遅延の関係について、従来研究の延長上の課題に取り組んだ。具体的に従来研究では、算術符号を用いた符号器と復号器の間に送信器はなく、どんなに長い符号語も瞬時に復号器に届くと想定されていた。そのもとで算術符号の精度を変えることによって遅延が変化することが示されている。平成27年度の研究では、まずシンボルの到着がポアソン到着した場合を検証した。様々な条件下で実験を行った結果、符号器と復号器が直接接続されている場合、平均遅延を特徴づけているのはシンボルの到着レートであり、到着間隔の分布そのものには影響されないことが分かった。また符号器と復号器の間に送信器と通信路を設置したモデルについても演算精度と遅延の関係を様々な条件下で実験的に検証した。このモデルでは、平均遅延を符号化遅延とバッファ遅延に分けて考えることができる。得られた結果から、符号化遅延は到着間隔の分布にはよらない一方、バッファ遅延は到着間隔の分布に依存することが分かった。いずれの場合も算術符号の演算精度を下げると遅延は小さくなったが、バッファ遅延については他と比べてその程度が小さかった。これは送信器の送信間隔と符号シンボルがバッファに入る間隔の違いに原因があると予想される。 遅延という概念は一般に送信シンボル列と受信シンボル列の間の歪みとしてとらえることができる。そこでレート・歪み理論の検討を行い、歪みに関する定理を証明した。歪みと遅延を橋渡しする理論を構築することによって遅延の解析に応用できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年度の当初の研究計画では、27年度までの研究成果を統合する段階に入らなければならないが、分節木に関する知見や達成不可能領域に関する検討が十分に行われていない。したがって達成度はやや遅れていると言わざるを得ない。また、当初予想していたよりも本研究に対するエフォートが確保できなかったことも原因の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
進捗の遅れの原因ともなっている分節木に関する検討を引き続き行う。具体的には分節木における順序保存性が遅延に与える影響をメカニズムの上から検討する。これは実験結果を詳細に分析することから開始される。算術符号は一種の順序保存符号とみなすこともできるので、その関連性と相違点を検討することも重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んだよりも安価に研究が遂行できている。具体的には、高価な高性能乱数生成器や解析用ソフトウェアを購入することなく実験およびデータの解析ができている。また、研究の進捗がやや遅れていることも影響している。主な影響は、大容量データストレージの購入が遅れていることと、研究成果発表のための国際会議参加を見送ったことである。
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次年度使用額の使用計画 |
大容量データストレージについてはこの報告書を作成時点ですでに発注済みである。また、研究成果発表のための国際会議についてはこの報告書を作成時点ですでに発表を申し込み済みである。以降は未着手だった事項に着手するため、実験用計算機や数式処理ソフトウェアを購入する。算術符号をオートマトンとしてとらえるためには膨大な数の状態が管理できなければならない。達成不可能領域を数理科学的アプローチで解析するには複雑な数式処理が必要になると予想される。さらに、これまでの実験結果を待ち行列理論やスケジュール理論の観点から検証する必要もあると思われるので、この分野の書籍や最新の研究状況を把握するための研究会への参加も必要になる。
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