研究課題/領域番号 |
26420356
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
島崎 仁司 京都工芸繊維大学, その他部局等, 准教授 (20226202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 情報通信 / アンテナ / マイクロ波 / ウェアラブルデバイス / 導電性織物 / キャビティ / 等価回路 |
研究実績の概要 |
導電性織物を使った柔らかい構造のアンテナとして、キャビティ付きスロットアンテナを取り扱い、設計・作製・測定を行った。前年度に給電線路の基板としてポリエステル製織物を使い、従来のフィルム状PTFEを素材に用いる場合に比べて、球面状に曲げた際の特性の変化を軽減した。本年度は基板をアンテナに縫い付けることで曲げた際の給電線の位置ずれやキャビティの変形を軽減することを試み、その効果を確認できた。これによって柔らかい構造のアンテナとしての特性は向上した。 前年度までに、キャビティ付きスロットアンテナにおいて非接触給電を行っている給電線路とアンテナとの電磁結合を電磁界解析により計算して相互インダクタンスを求めたが、さらに本年度は給電線上の電流分布が一様でないことを考慮に入れた計算を行って相互インダクタンスを求め、一様電流分布の場合と比較を行った。結果として大きな差異は見られず、簡単な電流分布を仮定しても等価回路モデルは求められることがわかった。また、スロット部の等価回路において、放射分を線路の減衰定数で表すのではなく集中定数素子として表現し、それによってさらに等価回路の結果と3次元電磁界解析による結果とが近くなり、精度が上がった。アンテナ設計における繰り返し計算の部分を簡単な等価回路で行えることは全体の計算時間短縮に大きな効果がある。 アンテナを身体、あるいは種々の物品に取り付けたとき、それらが障害物となってアンテナの特性が変化する。本研究では水分を多く含む人体や野菜、果実を念頭に置き、水を近傍に置いても影響の少ないアンテナを設計・試作・測定した。小型の2重円筒状の磁界型アンテナで、まずは織物でなく通常の金属を使い、920MHz帯のものを試作した。広くRFIDタグに使用されているダイポール型のアンテナと比べて近傍の水の影響が少ないことを数値計算及び実験により示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンテナの電磁波放射特性、ならびに給電線路との整合に関して、アンテナを曲げた場合の特性変化を明らかにすることは本研究の目的の一つであった。いくつかの曲げのパターンに対して特性変化を求めて整理することを当初は予定していたが、曲げた際に動作周波数が大きく変化することは重大な欠点になりうるので、まず、その対策を行うことを優先した。実績の概要に述べたように、給電線路に改良を加えることによって特性変化は軽減できており、この点については順調に進展している。 給電線路を含めた等価回路を構築し、簡略で計算時間の短い設計に役立てることも本研究の目的であった。動作周波数や整合回路パラメータの決定に際し、実績の概要で述べたように等価回路による計算結果と3次元電磁界解析シミュレーションによる結果との差がこれまでよりも小さくなり、すなわち簡単な計算で同等の結果が得られるようになった。等価回路を得るために3次元電磁界解析は不可欠なのであるが、設計に必要な全体としての計算量は大幅に軽減することができ、この点に関しては予定通りの進捗である。 水分を多く含む物体の近傍にアンテナがある場合の特性については、まずは柔らかい構造であることに捉われず、試作アンテナとしては銅板を使った。アンテナの特性としては水の影響が通常のアンテナより少ないものが得られたので、この点に関しては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
いくつかの曲げのパターンに対して特性変化を明らかにして、それらを整理することを当初は予定していた。しかし (1) 曲げた際に動作周波数が大きく変化することは重大な欠点になり得ること、および (2) 身体にアンテナを装着する場合に、その部位を肩甲骨あたり、もしくは臀部などに限定すれば、現実的にはあまりに複雑な湾曲が生じることは無いと考えることができ、緩やかな(曲率半径の大きな)球面、ないしは円柱面状の曲面を想定すればアンテナの曲げ特性としては十分である、という2つの理由から、今後は曲げの形状としては球面と円柱面に絞り、それよりも曲げによる特性変化をより少なくすることを狙いとする。方策としては、キャビティの変形を少なくする構造を考案する、全体として小型のアンテナとする、などが考えられる。 また、平板状の場合の等価回路は得られたが、曲げた際のその回路パラメータの変化についてはまだ調査していない。しかし、アンテナの設計について、最終的には3次元電磁界解析を行うことは必要であり、また、最初に給電位置を決める際に必要であった繰り返し計算を簡単な回路計算で済ませることができるようになったので、十分な計算時間短縮効果は得られている。今後は曲げた際の等価回路を求めることは付加的な課題とする。 磁界型のアンテナが水分の影響を受けにくいことは判ったので、今度はそれを導電性織物で実現することを試みる。また、PETボトルに入れた水道水だけでなく、人体を模したファントムに近づけた場合の特性を測定する。
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