研究課題/領域番号 |
26420379
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
相津 佳永 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20212350)
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研究分担者 |
島谷 祐一 東京都市大学, 工学部, 准教授 (20154263)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 皮膚計測 / 分光反射率 / ハイパースペクトル / 光子フルーエンス / 生体光吸収 / 生体光散乱 |
研究実績の概要 |
本研究は,皮膚ガンのハイパースペクトル画像から得た3次元光吸収・散乱係数分布を用いて,生体内光伝搬をボクセル型光子フルーエンスにより計算解析し,反射光成分から皮膚画像を再構成することで,光吸収・散乱異常の定量化を行う方式の新規開発を目指している. 平成26年度は,まず生体内を伝搬する光子フルーエンスをモンテカルロシミュレーションで計算するプログラムを開発し,GPU装備の専用PCで駆動する環境を確立した.対象波長範囲は可視400-720nmとし,2秒程度での計算が可能となった.次に,実施者が開発済みの多層化構造化皮膚モデルを適用し,腫瘍等局所条件異常に対する光子フルーエンス分布を計算可能にするため,皮膚内各層における標準光吸収係数,散乱係数,屈折率,散乱確度分布特性,層厚みのデータを最適化した. 次に光子フルーエンスを3次元で計算するための計算効率化を目指し,ボクセル型アルゴリズムを導入した.これにより複数ピクセルデータの平均値を代表させる近似手法が実現できた.さらに先行研究で開発済みのハイパースペクトルイメージングシステムのデータから推定した光吸収・散乱係数分布が層単位・ピクセル単位であったため,それを今回開発したプログラム内のボクセルに自動マッピングするためのプログラムを開発した.各ボクセルが有する境界6面でのフレネル反射についても,隣接媒体との相対屈折率を組み込むことで計算が可能になり,信頼性が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,皮膚ガンのハイパースペクトル画像から得た3次元光吸収・散乱係数分布を用いて,生体内光伝搬をボクセル型光子フルーエンスにより計算解析し,反射光成分から皮膚画像を再構成することで,光吸収・散乱異常の定量化を行う方式を開発することが目的であるが,その核となる技術が3次元の光子フルーエンス伝搬をPC実用レベルで汎用的に計算可能にすることである. 平成26年度は,当初計画にある光子フルーエンス対応モンテカルロシミュレーション計算のためのプログラム開発,対象波長範囲設定,開発済み多層化構造化皮膚モデルの適用,標準データ収集を実施できたが,さらに腫瘍だけでなく,皮膚科領域における各種皮膚内の異常に対応した組織学的変化をシミュレーションに組み込むための皮膚内各層における異常光吸収係数,散乱係数,屈折率,散乱確度分布特性,層厚みデータを入手できたことが期待以上の大きな成果となった.これより広範な汎用利用性を得られたと認識している.この成果の意味は大きい. また,光子フルーエンス3次元計算のための効率化には,当然GPUを活用したが,ボクセル設定の工夫と複数ピクセルデータの平均方法を新規に見いだせたことから,先行研究開発済みのハイパースペクトルイメージングデータを効率的に,プログラム内のボクセルに自動マッピングできるよになった.ボクセル境界6面でのフレネル反射計算も酌みこめたことから計算の信頼性を向上できた.今回の作業で当初予想以上に効果的な生体内で光子フルーエンスの伝搬計算がスムースに実施できるようになった.この成果は大きかったと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まずハイパースペクトル撮像装置の照明光源とCMOSカメラの改良で感度を1桁向上させた上で,取得データを使って,早速3次元光伝搬を解析する.計算負荷率を評価値とし,波長間隔,吸収・散乱係数,ボクセルサイズ・数に注視する.次に,得られた光伝搬分布データのうち皮膚表面再放出光成分の空間分布と放出角度分布データを求め,皮膚表面に擬似的2次光源を再配置設定する.これを市販の光学設計ソフトウェアに入力可能なデータ形式に変換するプログラムを開発する. 上述までの作業を経て得られる再構成画像が臨床場面で不適切・不合理と判断された場合に,ハイパースペクトル画像からの光吸収・散乱係数分布を再推定するプロセスを確立するため,不適切性を医師が,画像の色彩3情報(明度,彩度,色相)と,吸収・散乱係数値に基づく血液量多寡や組織変性の疑いに関連付けてフィードバックするユーザーインターフェースプログラムを開発する. 以上までの機能とプログラムを改良したハイパースペクトル撮像解析装置のハード・ソフトウェアに一体化し,統合化システムを構築する.PC操作画面では,ハイパースペクトル撮像に始まり,吸収・散乱係数推定,光伝搬解析,画像再構成を経て,画像と吸収・散乱定量値表示,およびフィードバック機能をメニュー選択可能にする.特に再構成画像とは吸収・散乱定量値分布画像は別ディスプレイに高画質表示させる. 構築した統合システムにて,多層構造型人工皮膚ファントム,および健常・病態ラットによる動物実験を行い,本手法の有用性を検証する.特に微小腫瘍・内部腫瘍を発生させたラットにより,本手法の再構成画像の見え方,吸収・散乱定量値,表面観察画像の相互相関性の評価を行う.最後にシステム全体の操作性の確認を行い,測定システムの改良・修正を経て本研究を終了する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品として当初購入予定であったプログラム保存用メモリが,性能向上により,安価に購入できたため,その差額を今後の光学・電気部材の購入に振り分けることが効果的と判断したことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
27年度にはハイパースペクトルイメージングシステムの照明・撮像光学系の高感度化を図る予定であり,そのために必要なカメラ部材,および制御電子回路用部品を一段高性能なものにすることで,研究成果の向上を目指す.また,27年度分助成金では,高輝度光源,高感度カメラ本体の購入を行い,関連する消耗品を調達する.汎用画像処理ソフトウェアのライセンス支払,および光伝搬計算プログラミングのアルバイト謝金,打合せおよび成果発表のための旅費への支出を予定している.
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