研究課題/領域番号 |
26420382
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
本島 邦行 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30272256)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非接触探傷試験 / 電磁波伝達関数 / 偶奇モード / 伝搬定数 / 周波数分散性 |
研究実績の概要 |
今年度の研究目的は、金属管に生じたき裂や異物の位置を特定することである。このために申請時の研究計画では、金属管表面に生じたき裂からの漏洩電磁波を波源と見なし、以前独自開発した電磁波源位置特定法を利用して、き裂位置の推定をおこなう予定であった。(外部計測法) しかし、今年度研究を進めた結果、申請書で予定していた外部計測法よりも、金属管内を伝搬する電磁波を用いた計測方法(内部計測法)の方が、容易かつ精度良くき裂や異物の位置を特定できることが判明した。これは、金属管内に広帯域電磁波を放射し、金属管内を伝わる電磁波の伝搬速度分散性を考慮し、周波数領域ー時間領域変換をおこなうことで精度良くき裂や異物の位置特定が可能であることが判明したことによる。この今年度新たに考案した計測方法では、金属管内の異物・き裂の位置を誤差数mm程度で高精度に特定することが可能である。 さらに、多様な金属管形状であっても本研究テーマの遠隔計測手法が適用できることを実証するため、U字に屈曲している金属管内の異物検出実証実験をおこなった。その結果、U字金属管の湾曲部の先にある異物であっても、直線金属管の場合と同様に検出可能であることが立証された。他の計測手法では、被計測体である金属管が曲がっている場合には、湾曲部が計測の障害となり計測感度が低下する。しかし、本研究テーマでは金属管内に電磁波を伝搬させる独自の計測方法であるため、金属管に湾曲部が存在していても計測精度に悪影響を及ばさないことが明らかになった。 さらに、分岐構造を持つT字金属管での計測もおこなった。この場合には金属管が分岐しているため、き裂や異物からの反射電磁波が分割されることで計測精度がやや低下するが、従来の計測方法ではなし得なかった分岐先にある異物やき裂も検出可能であることを立証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載された研究目的及び研究計画は、新たな電磁波を用いた金属配管の変形検出・き裂探傷試験法の開発を目的とした研究の実施である。具体的には、金属管の片端側から電磁波を照射して電磁波伝達関数を計測することで容易に金属管全体の変形・き裂を検出する新たな試験方法の開発である。 今年度までの研究で、金属管内を伝搬する電磁波を用いて金属管内に存在する異物やき裂検出を容易におこなえることを明らかにしてきた。平成26年度に実施した研究では、内径28mmの金属管内に、管の変形を模して置かれた4mmX4mmの金属片を容易に見つけ出すことを実証実験により明らかにした。さらに平成27年度に実施した研究では、金属管に生じたき裂を遠隔で検出できることを明らかにした。ただ、申請時に想定していた金属管表面に生じたき裂からの漏洩電磁波を波源と見なし、以前独自開発した電磁波源位置特定法を利用してき裂位置の推定をおこなう方法(外部計測法)よりも、金属管内を伝搬する電磁波を用いた計測方法(内部計測法)の方が、容易かつ精度良くき裂や異物の位置を特定できることが明らかになった。これは、金属管内を伝搬する電磁波の周波数分散性を考慮した周波数領域ー時間領域変換法を採用することで可能となった。 さらに、多様な金属管形状でも本研究テーマの計測法が適用可能であることを実証するため、U字に屈曲している金属管や分岐構造を持つT字金属管を被計測対象とした実証実験もおこなった。その結果、多様な金属管形状であっても、金属管内部に存在する異物やき裂を検出できることを実証した。 以上の研究進捗状況から、申請書に記載した”電磁波を用いた非接触遠隔探傷試験法の開発”としては、”(2)おおむね順調に進展している。”とした。
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今後の研究の推進方策 |
申請書では、今年度は独自の電磁波源位置特定法を用い、金属管表面に生じたき裂からの漏洩電磁波を遠隔計測することで、離れた位置からき裂位置を特定する研究を実施する予定であった。しかし、研究実績の概要で説明したように、申請時とは違った方法でき裂位置を特定する方法を開発した。これにより、申請時に想定していた実験装置より簡易な方法で計測が可能となった。 しかしこの計測方法は、金属管内に電磁波を放射して金属管の異常を検出する平成26年度の研究内容と同様に、高性能な電磁波放射プローブが必要となる。昨年度の実施状況報告書にも記載したが、この金属管内に電磁波を放射するプローブの完成度が低く、せっかく開発した新たな計測方法による計測精度(感度)を低下させている。電磁波放射プローブ自体の反射波がその大きな原因であるため、プローブの整合特性を改善する必要があるが、研究実績の概要に記載したように、今まで以上に広帯域の電磁波を用いた計測が必要となっているため、電磁波放射プローブの性能がそれに追いついていないのが現状である。 今後は、広帯域高性能な電磁波放射プローブを開発するために、以前から研究用ツールとして稼働している研究室の電磁界シミュレータを駆使して、広帯域かつ低反射性能のプローブを開発する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予算の主な使途は、新たに購入したベクトルネットワークアナライザである。これは、研究室の既存設備で本研究テーマの遂行に必須であるベクトルネットワークアナライザが老朽化のため使用できなくなり、その代わりとして急遽購入せざるおえなくなったものである。また、研究テーマ遂行のために金属管内に電磁波放射用のプローブも試作したので、そのための材料と実験用高周波ケーブルなども購入した。 上記のように、予定と大きく異なった内容で予算を使用した。その結果、予算額と支出額のずれとして次年度使用額が生じた。また、平成27年度に購入を予定していたベクトルネットワークアナライザ用校正キット(約50万円)が購入できなくなったので、次年度使用額と平成28年度交付額を併せて次年度に購入する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
項目”今後の研究の推進方策等”に記載したとおり、次年度(平成28年度)はプローブの整合特性改善を実施する予定である。これがなされれば、今年度の実験結果より高精度な計測が可能となるため、それに伴って計測器の高精度校正が必要となる。そこで、”ベクトルネットワークアナライザ用の校正キット”を購入する予定である。また、この実験を実施するための関連消耗品(高周波ケーブル、高周波コネクタ)も購入する予定である。
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