研究課題/領域番号 |
26420401
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90295577)
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研究分担者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
吉川 昭 近畿大学, 生物理工学部, 研究員 (30075329) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 注意 / 神経機構 / 脳機能計測 / 固視微動 / NIRS / 脳波 / 生体信号解析 |
研究実績の概要 |
認知の対象を定める働きを注意といい,脳の情報処理リソースのダイナミックな統制に重要な役割を果たしている.しかしながら,同時並列的かつ高速に進行する注意の情報処理過程を観察することは容易ではないために,注意の機能をもたらす神経系の情報処理過程を定量的かつ客観的にとらえた例は極めて少ない. 本研究は,注視時に不随意に生じる固視微動の解析に基づいて,注意の集中度合いを定量化して観測するとともに,近赤外分光法(NIRS)と脳波の同時計測から得られた脳活動情報の解析によって,脳内で機能する注意の情報処理過程をとらえ,注意の情報処理メカニズムの解明を目指すものである.固視微動解析による注意状態の推定と,NIRSと脳波の同時計測から得られる注意の情報処理過程における脳活動の時空間応答特性は,fMRIに代表される脳イメージング手法の弱点を的確に補うものであり,その成果は,認知科学や医工学分野への貢献が期待される. NIRSを用いた脳活動の計測では,レスト時とタスク時の賦活量の差が評価されるが,NIRS信号はレスト中の変動が大きいことが問題となる.本年度は,レスト中のNIRS信号変動を抑制する可能性が示されている高域遮断動的ランダムドットパタン(LPDRD)の効果を検証し,NIRS計測の精度を向上させるための計測条件についての検討を進め一定の成果を得た. 被験者に3バック課題を与え,その後のレスト期間にLPDRDまたは十字視標を提示して,このときの前頭前皮質(PFC)から右側側頭皮質(rLTC)にかけてのNIRS信号を計測した.NIRS信号には,脳機能成分と全身性成分に分離する手法を適用して脳機能成分のみを抽出し,いずれの条件がタスクによる賦活状態から早期に定常状態に回復させるのかを比較した.その結果,LPDRD観察時の方が減衰の効果は強く,PFCにおいて両者の差は有意となることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請における平成27年度の研究計画では,NIRS信号と脳波の同時計測データの解析を行うために,1)NIRS信号や脳波のアーチファクトを除去するために,独立成分分析などの適用を検討し,2)NIRS信号と脳波の同時計測データ解析に基づく脳活動の空間的および時間的な伝搬の推定に取り組むことを予定していた.NIRS計測は,身体動作に制約を設けない点が利点であるとされるが,実際のところは,例えば発話をさせるだけでも極めて大きなノイズが混入してしまい,脳活動の抽出が困難となることが判明した.そのため,1)に関しては,脳波計測を先送りとし,本年度はNIRS信号を安定的に計測するための実験条件について検討し,一定の成果を得た.また,NIRS計測データに混入した身体動作や循環器系由来のアーチファクトを除去する手法を適用し,その効果を検証した.さらには,NIRS計測信号に独立成分分析を適用するための手法についても検討を進めており,4月末に学会発表を予定している.今年度は,NIRS信号の性質に応じた対応に優先的に取り組む必要があったために,2)については先送りとした.以上のように,今年度の主な研究目標はほぼ達成されたことから,研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果として,初年度には,注意の神経機構を統制するために,固視微動の解析に基づいて,注意の集中度を定量化して観測するための実験手法や解析手法を検討した.今年度は,注意統制時の脳活動を計測するための準備として,NIRS計測に適した実験条件の検討を進めてきた.次年度は,NIRSと脳波の同時計測データの解析による注意神経機構の解明を目指して,1)NIRS信号のチャネル間相互相関分析による機能的結合部位の同定,2)脳波解析による機能的結合領域間における情報連絡の時間的推移の推定,などに取り掛かる. NIRS信号には身体動作や循環器系由来のノイズが,また,脳波には眼球運動や頭部の揺れがアーチファクトとして混入するために,1)の目標に取り掛かるには,まず,脳活動を正確に評価するためのアーチファクトの除去方法を検討する必要がある.NIRS信号に対しては,今年度の取り組みとして血流動態モデルによる脳機能成分と全身性成分への分離法や,独立成分分析の適用手法の検討を済ませており,チャネル間の相互相関分析の準備を進めているところである.2)については,NIRS信号の相互相関分析に基づいて推定された機能的結合領域に対し,領域間に生じる応答の時間差を脳波データから算出し,脳活動が伝搬する際の時間的推移の推定を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,注意の集中に伴う認知機能を推定するための予備的検討として,NIRS計測に適した実験条件や実験手法の提案を行った.提案手法により得られたNIRS信号に対して,血流動態モデルによる信号分離法や,主成分分析などの多変量解析の適用を検討した.しかしながら,解析手法に未確定な点があるために,信号解析のために必要とされる計算機の仕様が定まらず,導入を先送りすることにした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,これまでの研究の成果により蓄積してきた眼球運動,NIRS信号と,次年度に予定している脳波を加えた多次元生体信号の解析に注力する予定であり,生体信号解析用計算機,理論検討用計算機,および,データバックアップ用ファイルサーバの仕様を定めて導入する予定である.導入時期は,5月末から6月初旬を予定している.これらを用いて,種々の信号解析アルゴリズムを適用し,注意機能の推定のための判断材料を得る予定である.
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