研究課題/領域番号 |
26420414
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 栄光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40219118)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 1型糖尿病 / 糖代謝モデル / 血糖値制御 / 食後 / グリセミック指数 / 脂質 |
研究実績の概要 |
本研究では,1型糖尿病患者の血糖値を食後も含めて一日中適切な範囲に維持できる血糖値制御を実現することを目的としている.そのために,昨年度提案した食事の事前情報を利用した炭水化物中心の食事に対する血糖値制御法では不十分であった事前情報の誤差や患者のパラメータ変動に対するロバスト性および低血糖回避性能を改善するための制御法の検討,および食事に含まれる脂質の糖代謝への影響の詳細なモデル化を行った.得られた結果は以下のとおりである. 1. 食事時の血糖値制御法として,事前情報どおりの食事に対する制御性能と食前に予測した最適な血糖値変化からの誤差に対する制御性能が独立に調整できる血糖値制御法を提案した.また,設計に用いる制御対象モデルのパラメータのうち,胃内容排出の時定数を小さく選ぶことで,患者のパラメータ変動の影響を小さくすることができ,低血糖の回避が可能であることがわかった.ただし,高グリセミック指数の食事については誤差の影響が大きく,必ずしも食後2時間の血糖値を推奨範囲である80-180に維持できないことがわかった.さらなる制御法の改良を検討する必要があると考えられる. 2. 食事に含まれる脂質の糖代謝への影響の数式モデルとして,グリセミック指数を考慮に入れた炭水化物の消化吸収動態を含む糖代謝モデルに,脂質による胃内容排出の遅れおよびトリグリセリドと非エステル化脂肪酸のコンパートメントを付加したモデルを提案した.また,このモデルにより,炭水化物と脂質を含む食事に対する血糖値変化をおおむね表せることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血糖値制御法として,事前情報に対する制御性能と最適な血糖値変化からの誤差に対する制御性能を独立に調整できる方法を提案し,設計に用いるモデルパラメータを調整することにより,事前情報の誤差や患者のパラメータ変動に対するロバスト性の向上と,低血糖回避が可能となり,従来の血糖値制御システムでは達成できなかった食後の血糖値の推奨範囲での維持をほぼ達成できた. また,食後の血糖値の長時間の上昇を引き起こす食事に含まれる脂質の血糖値への影響をより正確に表すモデルを構築したことにより,炭水化物と脂質が含まれる食事に対する血糖値制御法および前の食事の影響が残った状態での食事に対する血糖値制御法の検討の準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
まず,炭水化物のみの食事に対する血糖値制御法と食事に含まれる脂質の影響を考慮した糖代謝モデルに基づいて,低血糖回避が可能でできるだけ推奨範囲内に血糖値を維持できる炭水化物と脂質を含む単回の食事に対する血糖値制御法の検討を行う. つぎに,夜間の血糖値変化のモデルを覚醒状態と睡眠状態の特性,とくに起床時に起こる暁現象などのホルモンの影響を考慮に入れて構成する.また,このモデルに基づいて夜間の血糖値制御法を検討する. さらに,前の食事の影響が残っている場合の食事に対する血糖値変化が提案した糖代謝モデルで表せるかどうかを検証し,そのうえで2回目以降の食事に対する血糖値制御法を検討し,十分な低血糖回避性能およびロバスト性能を持つ制御法を構成する.また,この制御法と夜間の血糖値制御法を組み合わせて一日中血糖値を望ましい範囲に維持できる血糖値制御法を構成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の検討に利用したデータは文献および共同研究先からの提供により得ることができたため,センサの購入を予定していた物品費およびデータ測定のための謝金の一部が未使用となった.
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した研究費は,次年度の複数回の食事による血糖値変化のデータ測定と研究をさらに進展させるための外国人共同研究員の費用に充てる.また,次年度に交付を受ける研究費は,計画どおり,夜間の糖代謝モデル作成のための臨床データの測定,一日中血糖値を望ましい範囲に維持できる血糖値制御法の構成,旅費および成果発表のために使用する.
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