研究実績の概要 |
本年度は,時空間階層システムである大規模分散階層型エネルギー管理システムの分散最適制御題として,2つの課題に取り組み,以下の結果が得られた.
1.時空間階層システムの1つであるマルチタイムスケール性を有する風力発電機と蓄電池を含むマイクログリッドに対して,H∞制御を基とした負荷周波数制御法を提案した. 再生可能エネルギーの導入により, エネルギーネットワークにおいて需給バランスを維持することがより困難になっているが,この対策として, 火力・水力発電機に, 蓄電池などの分散型電源を組み合わせることや, 新たな制御手法の適用が期待されている.本研究では,ディーゼル発電機と蓄電池のタイムスケールの違いを考慮した一般化プラントを構成し,静的H∞制御器を設計した. また静的H∞制御設計の繰り返し計算において生じる, 過大な制御入力をもたらすゲインを回避するためのLMI条件を示し, 静的H∞制御へと組み込んだ. 数値シミュレーションにおいては, PI制御器と比較することで, 周波数変動の抑制と蓄電池残容量変化の抑制を示した. また, 発電機と可変抵抗を用いた制御実験においても, 提案手法によって周波数変動を抑制できることを示した.
2.階層構造を有する分散型空調管理システムの分散制御法として,主双対有効制約法に基づく最適管理手法を提案した.省エネ化および快適性を両立させた大規模なHVAC(空調管理)の最適化と運用を,中央管理室のみで集中制御を行う場合には中央管理室の計算コスト負担が大きくなる.そこで通信コスト抑制可能な手法として主双対有効制約法を用いた分散型空調管理システムの提案を行った.具体的には,まず分散型空調管理HVACシステムに対して,モデル予測制御を考慮した評価関数を設定し,主双対有効制約法を用いた最適計算アルゴリズムを提案した.また数値実験により提案手法の有効性を検証した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られたマイクログリッドでの分散制御の成果を発展させ,大規模な階層型マルチタイムスケール電力系統における周波数制御問題を扱うことを目的とする. この問題に対して, 階層協調型モデル予測制御を用いた電力系統の周波数制御手法の提案を行う. 本手法は階層的かつ分散的に最適化を行う制御手法である.具体的には, 上層の制御器にて各サブエリアの負荷変動・風力発電変動を元に比較的タイムスケールの大きい燃料費最小化を目的とした発電出力配分の最適化計算を行い,次に上層での計算結果を下層である各サブエリアの送電会社に伝送する. 最後に下層の各サブエリアの送電会社では伝送された情報を発電機出力の参照値として協調型モデル予測制御を適用し, タイムスケールの小さい負荷周波数制御を行う. 次年度は最終年度であり,時空間階層システムに対する分散型最適制御システム構築の理論及び設計法の確立を目指す.
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