山岳トンネルの施工法は,大別して在来工法(矢板工法)と標準工法(NATM)とがある.1980年頃までの鉄道や道路トンネルの建設では,在来工法が主に採用され,それ以降はNATMが主に採用されている.トンネルの施工法が異なると,経験的に変状が生じやすい覆工コンクリートの打継目(目地)の位置や方向,導水・排水方法,さらには内装板の施工等が異なる.したがって,山岳トンネルの維持管理では,トンネルの施工法の特徴を十分考慮した点検や健全性評価が重要となる. トンネル覆工に生じるコンクリートのはく離やはく落現象をみると,両工法ともに目地部付近に多く,また漏水を伴う場合が多いという特徴がある.一般に,トンネル覆工の目地部においてコンクリートがはく離する変状は,コンクリート中のジャンカの存在や乾燥収縮作用などによってひび割れが進行して生じるものと考えられる. そこで,研究代表者らは,50年を経過した覆工コンクリートの分析から,ひび割れ部の漏水によってカルシウムが溶脱してセメント硬化体が脆弱化することがコンクリートのはく離現象に強く影響すると考え,カルシウム溶脱によるひび割れ進展の仮説を立てた. 本研究はコンクリート打設後,漏水によって早期に溶出するカルシウム量を定量的に把握する手法としてキレート滴定を,漏水を伴うひび割れ面に存在するカルシウム量の変化を把握する手法として蛍光X線分析をとりあげその有効性を検討した.その結果,キレート滴定による手法で溶出するカルシウム量を定量的に測定することができることを確認した.また,蛍光X線分析による手法でひび割れ表面に残存するカルシウム量をある程度分析できることを確認した.
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