研究課題/領域番号 |
26420457
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
清水 茂 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (90126681)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 垂直座屈 / 鋼I桁 / フランジ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、曲げを受ける鋼I桁上フランジの垂直座屈について、(1)その発生メカニズムや垂直座屈強度を支配する要因を数値解析により調べ、(2)フランジ垂直座屈の力学的モデルを提案し、(3)慣用の照査式に替わる照査式の考察することである。26年度は、数値解析により(1)を主に行ったほか、(2)について、その準備的な研究を行った。 (1)では、まず、垂直座屈に関するBaslerの照査式を検討した。Baslerは、フランジ垂直座屈が一種の腹板の座屈であると考え、腹板の幅厚比をもとにした照査式を提案している。しかし、これまでの結果を検討した結果、垂直座屈の発生は幅厚比に無関係であった。Baslerは、垂直座屈発生時、腹板が、その上下方向ほぼ全体にわたって変形すると仮定している。しかし、本研究では、腹板は、その上部のみしか変形していない。これらの結果から、フランジ垂直座屈は腹板に依存しているのではなく、フランジそのものの座屈挙動に基づいた議論が必要であることが、(1)に関連して得られた実績である。 (2)の力学的モデルについては、本研究ではTimoshenkoの弾性床上の柱のモデルを用いることを考えている。フランジを弾性床上の柱でモデル化する場合、そのバネ定数が問題となる。26年度はそのバネ定数決定の資料とするため、(1)で得られた解析結果からバネ定数を逆算した。垂直座屈発生時にフランジに生じる圧縮力をもとに、垂直座屈強度を求めたところ、その強度は、腹板の幅厚比によらず、フランジ厚さに対してほぼ線形に変化した。その垂直座屈強度をもとにバネ定数を求めたところ、同様に、幅厚比によらず、フランジ厚さに対してほぼ線形に変化した。27年度以降は、ここで得られたバネ定数の値を参考に、フランジ垂直座屈の力学モデルを決定することとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた研究目的の(1)~(3)それぞれについて達成度を説明する。 (1)の垂直座屈の発生メカニズムや垂直座屈強度を支配する要因を数値解析により調べることについては、垂直座屈の発生を支配する要因がある程度分かってきた。その要因のうち、荷重の非対称性がかなり関わっていることについて再確認した。一方、26年度の成果としては、Baslerの照査式で垂直座屈発生に大きく関わっているとされた桁高さ(すなわち腹板幅)は、垂直座屈にはほとんど影響しないこと、垂直座屈の発生には、むしろフランジ厚が重要であることなどがわかってきている。これらのことから、(1)に関しては、ほぼ達成したと考えている。 (2)のフランジ垂直座屈の力学的モデル、フランジ垂直座屈をTimoshenkoの弾性床上の柱でモデル化することについて、ある程度のめどがついてきたと考えている。Timoshenkoのモデルでは、弾性床のバネ定数が座屈強度に関わっている。これをフランジ垂直座屈の問題に応用する場合、腹板がフランジを支える事に伴うバネの効果がどの程度あるかが重要である。26年度には、まず、垂直座屈発生時点のフランジの応力から、Timoshenkoのモデルにおける柱の座屈強度に相当する垂直座屈強度を求め、その値を元に、バネ定数を逆算する事を試みた。その結果、バネ定数は、腹板幅(桁高さ)にはほとんど関係せず、腹板厚さに対してほぼ1本の直線で表現できることがわかった。以後は、このバネ定数の値を元に、相当する腹板のモデルを考察することとなる。そこで、この(2)に関しては、目標の40%程度まで達成できたと考えている。 (3)については、(2)の成果を元に、今後、必要な照査式の提案について考察を進めることとなるため、26年度には、ほとんど着手していない。 以上のことから、現時点の達成度は、本研究の目的全体に対しては、概ね順調と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、26年度に引き続き、垂直座屈強度を支配すると考えられる、腹板のバネ効果を重点的に調べることとする。26年度の成果として、腹板を、Timoshenkoの弾性床上の柱に対するバネとみなした場合のバネ定数の値は、桁高さに依存せず、フランジ厚に対して1本の直線で表現できることがわかった。 そこで、27年度は、そのバネ定数を得るための腹板のモデル化を具体的に提案出来るよう、解析を進めることとする。また、26年度には一部しか着手していなかった、断面寸法の異なる他のモデルについての解析も、本格的に開始する。モデルの設定については、引き続き、第一線で活躍している橋梁技術者に助言を求める。また、ポーランドで開催される国際学会でこれまでの成果を発表し、内外の研究者からのコメントも得ることとする。 さらに27年度には、上記の成果を元に、Timoshenkoの式を元にした、フランジ垂直座屈の座屈強度推定式について考察を開始する。具体的には、フランジ垂直座屈の座屈強度を求める式をもとに、一部の特定のモデルに対して、具体的な設計基準に準じた式の提案を考える。 28年度には、上記の式を、他のモデルにも適応し得るよう、より一般化したフランジ垂直座屈の照査式について考察する。フランジ垂直座屈の座屈強度を求める式については、これまでの成果を元に、比較的容易に提案できる可能性があると考えている。世界の設計規準が性能照査型設計に向かっている昨今、この強度推定式が提案出来れば、本研究の目的は一応達せられたこととなるが、本研究では、従来の仕様設計的な表現もふまえ、フランジの剛度や寸法の基準についても考察を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるにあたり、適宜、第一線の橋梁技術者の助言を数回受けることとしていたが、先方の都合等により、実際には一回しか助言を受ける機会が無く、謝金の支出が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は、Timoshenko のモデルを実際に適用するに当たっての問題点や強度推定式の考察など、具体的な設計基準に関係した内容が研究の主要部分を占めることとなる。そのため、研究の方向性・設計基準のあり方などについて、引き続き第一線の橋梁技術者の助言を受ける予定である。次年度使用額も含めた研究経費は、そのための謝金等に充当する。 また、26年度と同様に、研究成果は国際学会で発表し、討議を受けることとしているため、その参加費・旅費の支出も予定している。
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