本研究では、結晶質岩中の弾性波伝播挙動と、結晶粒スケールでの微視的構造の関係を理解することを目的として、超音波計測と波形解析を行ったものである。超音波計測には、典型的な結晶質岩である花崗岩を用い、弾性波伝播挙動を詳細に調べるべく、レーザードップラー振動計による表面波の測定を行った。表面波の計測を精確に行うために、ここでは試料と振動計の相対位置は3軸ステージで制御し、500kHz程度の周波数成分をもつ表面波を励起して、その透過経路上での鉛直振動成分を取得する実験システムを構築した。計測により得られた時空間波形に、周波数解析を行なうことで、結晶質岩中の表面波伝播速度は約2.5km/sec程度と、健全な岩の典型的な横波音速程度の値となることが分かった。ただし、花崗岩は弾性波の媒体として、強いローパスフィルターとして作用し、その周波数特性は、多重散乱効果により非常に複雑になることも明らかとなった。そこで、観測波形から透過波成分と反射波成分を分離を行ない、散乱波の発生源と強度を推定したところ、強い散乱波は結晶粒界でなく、主としてマイクロクラックを含む鉱物粒(長石および石英粒)において発生することが明らかになった。以上により、結晶質岩を非均質媒体としてモデル化する際、き裂性媒体としての取り扱いが必要であることを示すとともに、超音波計測結果から逆に、特定の鉱物粒やき裂の分量を推定するための弾性波非破壊検査法の開発につながる有益な情報を得ることができた。
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