研究課題/領域番号 |
26420461
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 俊幸 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (50202172)
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研究分担者 |
森山 敏文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (20452873)
藤本 孝文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (40264204)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生コンの配合比調査 / 安全基準 / 非破壊検査 / 電磁波レーダ / 鉄筋探査 / 比誘電率分布 / 経日変化 |
研究実績の概要 |
コンクリート構造物は長い年月に亘って保守管理されなければならない。設計図通りに建設されたコンクリート構造物の耐用年数は一般に予測可能である。しかし、もしコンクリート自体が違法なものであれば、設計図通りに作られた構造物であっても、予定した耐用年数を得ることができない。本研究ではフレッシュコンクリート(生コン)の配合比が発注したものと同等であるかどうかを電磁波を利用して判断するためのシステムを構築する。また、コンクリート壁内の電気定数分布を詳細に推定する方法について議論する。さらに、電磁波レーダ法の探査精度を向上するためにコンクリート内の電気定数分布を測定する。上記に対して実績の概要を示す。1つめの生コンの配合比推定では、生コン中の水分は打設後下に沈んでいくことを発見し、高さ方向の比誘電率の変化の様子から、水分量の推定の可能性があることを示した。また、容器一体型アレイアンテナシステムを作成し、単体のアンテナと比べて電波の方向を絞ることに成功し、水分探査の精度が向上することを明らかにした。2つめのコンクリート壁の電気定数の分布測定では、コンクリート壁の両側に送信アンテナと受信アンテナをそれぞれ配置し、透過波を利用して比誘電率分布をFBTS法を利用して推定できることを示した。3つめのコンクリートの内部の電気定数(比誘電率、導電率)分布の測定では、これまでに作成した試験体の経日変化の測定だけでなく、新たに試験体を作成し、測定データの精度向上を目指した。得られたデータから電気定数分布の深さ方向の変化と経日変化の特性の近似式を求めた。さらにコンクリート打設直後から凝結するまでの比誘電率の変化についても明らかにした。これにより、今まで不可能であった打設直後からの比誘電率分布の経日変化をモデル化できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フレッシュコンクリートの配合比の推定に関して推定結果の精度向上を目指して、単一周波数を利用した位相差による推定、多周波を利用した到達時間差による推定などを行った。また、放射電波を正面に絞ることを目指して,アレイアンテナを設計し、作成した。アレイアンテナによる配合比推定実験により,単体時と比べて推定誤差が半分以下になっていることを明らかにした。さらに、生コン中の水分が凝結前に下に沈んでいくことを発見した。このことはこれまで不透明であった推定誤差の補正に利用できるのではないかと考えている.以上によりこのテーマに関しては予定通り進んでいると判断した。 次に、送受信器分離型レーダ装置を模擬したコンクリート壁内の比誘電率分布推定に関する数値シミュレーションを行った。コンクリート壁の片側に送信アンテナ。反対側に受信アンテナを配置し、複数のアンテナの位置での透過波の組合せによりコンクリート壁の比誘電率分布を推定できることを明らかにした。さらに、コンクリート壁を層状媒質に仮定することにより、透過波の数を少なくすることができることを示した。しかし、1カ所に固定したアンテナの組(1つの透過波)では,層状媒質であっても正しく推定できないことを示した。しかしながら、反射波を利用することによって、1対の送受信アンテナだけで層状媒質を推定可能であることを示した。以上によりこのテーマに関しては予定通り進んでいると判断した。 コンクリートの電気定数分布の非破壊計測に関してはこれまでの試験体のモニタリングの継続と新たな試験体を作成した。特に打設直後からの電気定数の経日変化の近似式を求めるために、生コンから凝結するまでの比誘電率の変化を明らかにした。比誘電率の深さと経日変化を模擬した近似式を提案した。以上よりこのテーマは予定以上の成果を得た。全てを考慮して、研究は予定通りに進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
3つのテーマに対して以下のように研究を進める予定である。 1.フレッシュコンクリートの成分推定に関してはアレイアンテナを容器内に2組配置し、高低差による受信電界の変化から、フレッシュコンクリートの配合比を推定する。また、評価結果のばらつきを小さくするために、温度と湿度管理による高精度実験を行う。他のコンクリート配合比に対する推定を行う。 2.電気定数の詳細な推定に関しては、電気定数分布を実測値を用いて推定するために、専用のアンテナシステムを作成する。観測界を再現できるFDTD法の入射電流源を求める。均質層状媒質に提案手法を適用し、推定実験を行う.コンクリート壁に対して提案手法を適用し、比誘電率分布を推定する。 3.コンクリート内部の比誘電率分布の非破壊測定に関しては、同軸プローブの温度特性、応力特性を測定し、比誘電率のモニタリングの正当性を示す。プローブによる電気定数分布とダイポールによる電気定数分布の測定結果の比較を行い、比誘電率分布の経日変化の関数化を行う。 異なる配合比に対する試験体を作成し、比誘電率分布の変化量を調べる。比誘電率分布の推定式をレーダ法に適用し、鉄筋探査の精度を向上させる。簡易鉄筋探査法に比誘電率分布の推定式を導入し、鉄筋探査精度の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コンクリート試験体のモニタリングは非常に長い期間行う必要がある。モニタリングの結果から次の試験体の設計を行う為、試験体の製作開始時期が遅れてしまった。今年度、フレッシュコンクリートの比誘電率の高さ特性が存在することを新たに発見したので、それを配合比の評価に利用するための設計をやり直す必要が生じた.アレイアンテナ対を作成するための材料費が必要となった。 コンクリートの比誘電率分布を実験で推定するための手順が完成したので、実験値を得るための新たな実験システムを作成する必要が生じた。 上記理由により、新たな探査システムを構築するために次年度に経費を使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
アレイアンテナ対を作成するための基板費、コネクタ、工作工具、ケーブルに予算を使用する予定である。必要であれば、外注も考えている。 また、コンクリートの比誘電率分布の推定実験のための、簡易電波暗箱の作成、誘電体埋込ビバルディアンテナの作製費など、主に来年度実施予定の新たな実験に経費を使用する予定である。
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