本研究は,風と木材燃焼の連成解析に基づいた新たな林野火災シミュレーション法の開発を目的としたものである.本年度は①木材燃焼実験の木材延焼速度評価方法の検討,②木材延焼時の周辺気流温度の計測,③気象モデルによる特定の地点・日時の風況予測の精緻化,④数値流体解析にもとづく木材燃焼時の解析を行った. 平成27年度の研究で木材(葉材)の燃焼実験を実施した.その結果,木材の種類や堆積密度に応じて延焼速度は若干変化するものの,今回の実験の範囲ではほぼ一定の速度に収束することが明らかとなった.ただし,実施回数が少なく,データのばらつきも大きかった.そこで,より高精度な延焼速度を取得するための燃焼実験を実施した.特に画像解析により延焼速度を評価する方法,熱電対により測定した温度から評価する方法の2パターンを比較し,画像解析により容易に延焼速度を評価できることを確認した.さらに,これまでは木材の温度変化のみに着目して燃焼実験を行っていたが,それと同時に周辺気流の温度計測を試みた.その結果,堆積密度にも依存するが,おおむね最大温度は900度まで達し,かつ高温の領域と外気温の領域との境目が非常に薄く,急激に温度が変化することが確認された.これらのデータを検証データとして,昨年度までに構築した数値流体解析法の検証を進めている段階である. 3点目として,気象モデルWRFによる特定の地点・時間の風況予測の精緻化を試みた.数値解析の精度に大きく影響を及ぼす境界条件に着目し,国土地理院が発行している標高データと土地利用データを境界条件に組み込んだ.その結果,これまでよりも風速や気温の空間的な変化を詳細に捉えられるようになった.今後気象モデルの解析結果を,独自に開発した数値流体解析法の初期・境界条件として組み込んだ,任意の地点・時間の林野火災シミュレーションを実施する予定である.
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