研究課題/領域番号 |
26420470
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 忠信 神戸学院大学, 現代社会学部, 研究員 (00027294)
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研究分担者 |
野村 泰稔 立命館大学, 理工学部, 講師 (20372667)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 構造工学 / 構造ヘルスモニタリング / カオス理論 / 構造同定 / 粒子フィルター / 緩和型フィルター / 起振器 / 模型実験 |
研究実績の概要 |
カオス理論で用いられるアトラクタ解析とフラクタル次元解析の概念を用いて、カオス信号を入力とした構造物の応答値からアトラクタを作成し、構造物が損傷を受ける前後のアトラクタを比較することで損傷検出を行うアルゴリズムを確立した。アトラクタを解析する手法の1つとして、Recurrence Analysisがある。この手法は、2つのアトラクタ軌道の幾何学的な接近度を定量的に評価する手法である。カオス性を有する外力に対する構造物の応答から得られるアトラクタを、Recurrence Analysisで定義されている指標を用いて定量化し、この値を損傷前後で比較することで損傷検出が可能となった。検出する損傷のレベルは、健全な構造物からの剛性低下率が数%以下とした。さらにアトラクタのフラクタル次元を利用して精度よく損傷検出を行えるアルゴリズムが構築できることを明らかにした。まず数値解析より、構造物の剛性低下が数%以下の損傷を設定し、入力と観測値に高レベルのノイズを付加した条件のもとで損傷検出を行い、提案手法の有用性を示した。さらに、カオス性を有する電気信号に基づいて、構造物にカオス性振動外乱を与えることのできる小型起振器を開発した。開発された起振器を利用した模型実験により、提案手法の実用性を検証した。 以上の手法では、損傷が発生したかどうかだけの判定しかできないので、本研究の第二の目的として、剛性低下の割合が数%以下の構造部材の動特性を決定するために、申請者が開発した緩和型粒子フィルター理論を利用した新しい構造同定法の開発に着手した。また、地震動が入力する構造物の動特性を同定するために、地震動のフラクタル特性を利用する研究も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画として下10項目を設定した。10項目ごとに達成度を記入する。 (1)カオス現象を発生できるいくつかの微分方程式群を対象として、広範囲の周波数帯域をカバーできるカオスを抽出する(100%達成)。(2)カオス性を有する外力を入力とした構造物の応答時系列から得られる再構成アトラクタをRecurrence Analysisにおける指標を用いて定量的に評価し、指標の変化を損傷前後で比較することで損傷を検出するという新しい損傷検出手法を確立した(100%達成)。(3)一箇所の構造部材が損傷を受けても全ての構造要素の応答が変化するにも関わらず、アトラクタに基づいた損傷検出では、損傷部位による応答の変化のみが検出されるメカニズムを明らかにする(30%達成)。(4)せん断型の4層フレームモデルを対象とした数値解析により、高レベルの観測ノイズが付加された条件のもとで、非常に小さな損傷を検出できることを明らかにした(100%達成)。(5)提案手法のノイズに対するロバスト性の高いことを理論的に証明する(70%達成)。(6)提案手法が複雑なモデルを対象としても十分に適用できることを示す(60%達成)。(7)与えられたカオス信号と同じ起振力を発生できるような偏心質量型の小型起振器を作成し、その性能を詳細に検査した(100%達成)。(8)各層の剛性と減衰特性を任意の値に設定できるようなせん断型4層フレーム模型構造物を作成する(100%達成)。(9)小型起振器を模型構造物の最上階に設置して、カオス型起力で模型構造物を揺すり、構造物の応答の時刻暦からアトラクタが再現できることを確認する。実験は立命館大学構内で実施した(70%達成)。(10)損傷を受けた構想物の例として、模型構造物の各層の剛性が元の剛性より5,2,1%減少する3種類を設定し、それが判定できるかどうかを確認(30%達成)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)損傷の有無を判定するだけでなく、入力と出力の再構成アトラクタを利用した、構造同定アルゴリズムを開発する。理論展開には既に発表済みの緩和型モンテカルロフィルターの概念を用いる。(2)26年度に利用したせん断肩4層フレームモデルと3次元フレームモデルを利用した数値解析により提案手法の有効性を検証する。1箇所のみが損傷を受けているときを対象として、同定できる損傷のレベルの最小値を明確にする。複数個所が同時に損傷した場合の組み合わせに対しても同定できる限界を明らかにする。(3)既に作成済みの4層フレーム模型構造物を利用した実験を行い、提案する手法の有効性を検証する。 (4) 3次元フレーム構造模型を作成して、立体的な構造物に対してもここで提案する手法を用いて構造物の損傷検出や構造同定が可能であることを明らかにする。 (5) 構造部材の内部欠陥の検出に、ここで提案する手法が利用できるかどうかの可能性を模索する。そのために、有限要素法を利用して、2次元弾性体内をカオス性を有する平面波が伝播するとき、弾性体内に存在する内部欠陥により波動がどのように散乱されるかを詳細に検討する。(6) その結果に基づいて、カオス波動を利用した内部欠陥の検出法を開発する。このためには、数値シミュレーションにより詳細な検討を行う。 (7) 内部欠陥の数を増やしたときに、どの程度の数まで同時に検出できるのかを発信器の設置位置と受信器数と配置の関連に基づいて考察を加える。(8) 高周波領域でカオス性波動を発受信できる装置の開発を行う。 (9) 矩形の鉄板を利用し、内部に微細な円孔を穿ち、開発した発信器と受信機を用い、円孔によって散乱されるカオス性波動の挙動を計測する。(10) 観測データから円孔の位置ならびにサイズを同定するためのアルゴリズムの開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた消耗品(512GBのUSB)の購入が実験実施の時期がずれ、不必要になったため、次年度へ繰り越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
模型実験を行うための費用に20万円を、消耗品費として19万円を、実験補助の謝金として15万円を、50万円を研究発表のための旅費として使用する。
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