研究課題/領域番号 |
26420471
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
片山 拓朗 崇城大学, 工学部, 教授 (80310027)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 免震支承 / プレート / 磁石 / 鋼球 / 非磁性体 / 磁気回路 / 復元力 / 摩擦力 |
研究実績の概要 |
最大支持質量5000kg・最大振幅240mmの磁気復元力式ボール免震支承を試作した。試作機は下面の中央に磁石を備える円盤状のスライドプレート、上面の中央に磁石を備える円盤状のベースプレートおよび上面と下面の中央部にそれぞれ磁石を備え且つそれらの磁石の周囲に40個の玉軸受用鋼球を配置する円盤状のリテーナーで構成した。スライドプレートとベースプレートの材質は耐摩耗鋼板(ブリネル硬さ450~550)とし、各々の形状寸法はそれぞれφ770×t34とφ830×t34とした。玉軸受用鋼球の材質は高クロム炭素鋼とし、その直径は50.8mmとした。リテーナーはアルミニューム合金製のリテーナー本体とポリアセタール樹脂製の鋼球カバーで構成した。 磁石はネオジウム・鉄・ボロンを主成分とした希土類磁石とし、その形状はφ140×t15とした。磁石単体の中心部の表面磁束密度は93~135mTであった。2枚の磁石同士を1.5mm離した時の磁気吸引力は1.25と1.12kNであり、磁石間の隙間の磁束密度は316mTと299mTであった。スライドプレートとリテーナーの磁石同士の隙間およびリテーナーとベースプレートの磁石同士の隙間が1.5mmとなるように免震支承を組み立てた。 スライドプレートとベースプレートの変位が約15mmまで変位に比例して復元力が増加し、変位が約15mmを超えると復元力の増加の割合が減少し、変位が約30mmで復元力は最大となった。変位が30mmを越えると復元力は減少し、変位40mmで増加に転じ、変位が100mmまで緩やかに増加した。変位が100mmを越えると復元力は緩やかに減少した。変位30mmにおける最大復元力は490Nであり、変位240mmにおける復元力は180Nであった。変位30mmにおける摩擦力は210Nであった。変位が15mmより小さい場合の接線剛性は約34N/mmであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スライドプレートとベースプレートの材料は耐摩耗鋼板(HBW450~540)とし、原板を砥石で研磨することにより両プレートを製作した。当初、材料の候補であったマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)は入手が困難で、冷間金型鋼(SKD11)は製作費が耐摩耗鋼板のそれに比べて2~3倍となることが判明した。入手可能な耐摩耗鋼板の寸法の範囲は広く、素材メーカーを選択できるため、耐摩耗鋼板はスライドプレートとベースプレートの材料として最良であることが確認された。 主に費用面から磁石はネオジウム・鉄・ボロンを主成分とした直径140mmの希土類一体磁石とした。直径140mmを越える場合は集合磁石として製作が可能であるが、集合磁石の製作費は一体磁石のそれの約4倍となることが判明した。 静的往復作動試験により10回程度の往復後の力と変位の履歴曲線は同じ経路を辿ることが確認された。その履歴曲線において、変位15mm以下の接線剛性は約34N/mmであった。変位30mmまでは磁気復元力(以下、復元力と略す)は増加し、変位が30mmを越えると多少の増減はあるものの復元力は緩やかに減少し、変位240mmまで復元力の発生が確認された。変位30mmと変位240mmにおける復元力は約490Nと180Nであった。変位240mmは磁石直径の1.71倍に相当する。変位と復元力の関係は残留変位が生じない完全弾塑性に似た非線形の力学特性を示した。リテーナーと各部の接触で生じる摩擦力は最大復元力の43%であることが確認された。 変位と復元力の履歴曲線の特徴から、搭載質量を5000kgとすると、振幅15mm以下の固有周期は約2.4sになると推定され、振幅が30mmを越えると固有周期は2.4sより大きくなると推定された。これより、本研究の免震支承は小振幅に比べて大振幅時に固有周期の伸長が生じると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究で試作したボール免震支承の力と変位の履歴曲線は事前に予想していたよりもやや複雑な非線形特性を示した。この復元力の非線形性を改善するため磁石の隙間と復元力の関係を静的往復作動試験により検証する。復元力の非線形特性に対応できるように地震応答解析プログラムを改良する。自由振動試験と自由振動解析によりボール免震支承の固有振動特性を検証し、地震応答解析と共振応答解析により免震特性を推定する。 ボール免震支承のリテーナーの構造は当初の予想よりもやや複雑となり、リテーナー部の製作費が支承全体のそれの約50%を占めることが課題となった。そこで、実機の1/3程度の能力である最大支持質量5000kg・最大変位150mmの磁気復元力式すべり免震支承(以後、すべり免震支承と略す。)を試作し、その復元力特性、免震特性、製作費などを調べ、すべり免震支承の実用性を検討する。 すべり免震支承はスライドプレートと中間スライドプレートおよびベースプレートを重ねた構造である。中間スライドプレートがボール免震支承のリテーナーに相当する。各プレートの接触面にはフッ素樹脂シートと鏡面加工されたオーステナイト系ステンレス鋼板およびシリコーンオイルからなる摩擦係数0.01未満の摺動面を形成する。磁気復元力の生成方法はボール免震支承と同じである。すべり免震支承については、小型の試作機よる実験成果から漸軟型の復元力特性と実用的な摩擦係数0.01を容易に達成できる見込みである。 ボール免震支承とすべり免震支承についてFEM静磁界解析を行い、磁石の磁気特性と復元力の関係を定量的に明らかにする。FEM静磁界解析、地震応答解析、共振応答解析により高レベル核廃棄物の乾式キャスク、プラント、橋梁への応用を想定した実機を設計し、実機に必要な磁石の磁気特性に拘わる条件(磁石の幾何学的大きさ、起磁力、プレートの寸法など)と支承の製造費を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
為替変動により磁石の購入費に差額が生じたため、少額28円の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
シリコーングリースなどの消耗品の購入費に充当する。
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