研究課題/領域番号 |
26420472
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
小幡 卓司 北海学園大学, 工学部, 教授 (20214215)
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研究分担者 |
和田 健 大阪府立大学工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (00469587)
早川 潔 大阪府立大学工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (20325575)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 損傷同定 / ヘルスモニタリング / 圧電素子 / 多点同時測定 |
研究実績の概要 |
本年度においては,圧電素子を用いた多点同時測定ヘルスモニタリングシステムの完成と,同期・測定精度の向上および損傷同定の実用化の可能性に関して検討を行った. 本システムは,親機となるサーバーから,複数の子機にデータ取得のシグナルを送り,子機に接続された4個程度の圧電素子から振動データを計測するため,子機の同期精度が問題となる.この同期精度について実験を行ったところ,同一のネットワーク内であれば10機程度の子機の同期精度は十分であり,理論的にはさらに子機を増やしても大きな問題は生じないことが判明した.なお,子機から親機へのデータの転送は,振動波形を直接転送すると非常にデータ数が多くなり時間を要するため,子機内で高速フーリエ変換を行い,ある程度データを圧縮する形で親機に送ると転送時間も非常に短縮できることが確認された. 次に本システムの損傷同定に関する性能について述べる.上記の通りデータはフーリエスペクトルで送られて来るため,健全時と損傷時のスペクトルを比較することにより損傷の有無を判定することを試みた.なお.実験は橋梁を模した3主桁の実験供試体を用いている,実験結果からは,損傷位置の近傍でのデータでは健全時では1次モードと2次モードのピークが明確に確認されたが,損傷時では1次,2次モードともピークが大きく減少し,2次モードでは振動数の低下も確認することが可能であった.損傷位置から離れた位置での測定データでは,健全時,損傷時ともそれほど明確な差異は認められなかった.このことから,本システムは,少なくとも損傷位置の同定は可能であることが判明した. さらに,クラウドでのデータの「見せかた」についても検討を行った.クラウドでは,集積されたデータを1橋ずつの測定データ毎にブラウザに表示することで,データを確認できるような方法を検討中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な目的は,1)複数の橋梁における多点同時振動測定,2)圧電素子を用いた損傷同定システムの開発,3)クラウドサーバーでの橋梁毎のデータ管理と1橋毎のデータの時系列表示方法の検討である. このうち,1)は同一のネットワーク上であれば,親機から実際に測定を行う子機にデータ計測の命令を出せば,それぞれの子機に接続された複数の圧電素子から振動データを取得することができるシステムの開発に成功している.本システムは計測のインターバル(例えば,6時間ごと)を設定すれば自動計測も可能である.次に2)の損傷同定システムであるが,損傷がある程度大きければ,ほぼ確実に損傷位置の同定が可能であり,少なくとも実験室レベルではその有効性は確認されている.ただし,現状では損傷の判定はかなりの技術レベルを持った人間が行う必要がある.3)については,クラウドサーバーにアクセス権を持つ人間ならば,誰でもデータをフーリエスペクトルの形でブラウザを用いて,場所や機材(例えば,スマートフォン)を問わず確認することが可能となっている.「見せ方」についても,ユーザーのリクエストがあれば,様々な形でより損傷の判定が行いやすい方法を提供することが可能である. 以上のように,本研究における,多点同時測定システム,損傷同定方法,データ確認方法のコアとなる部分は完成状態にあり,この3つの開発された要素技術においてそれぞれいくつかの解決すべき課題は残っているものの,システム全体としてはほぼ完成状態にあり,研究全体としてはおおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
今後の解決すべき課題として,1)多点同時計測システム,2)損傷同定方法,3)データ管理と表示方法の要素技術それぞれに関して以下に示す. まず1)の多点同時計測システムに関して,現在まではある1つのLANの中で同一の子機を使って実験や開発を行ってきた.実用化に向けての課題として,WiMAXなどの別のネットワークへの接続の問題がある.通常の商用ネットワークは動的IPを使用しているので,子機を特定するには相応の技術開発が必要である.また,市販されている計測器などの利用も解決すべき課題である. 次に2)に関して,損傷位置の同定は可能であるが,損傷の程度の判定は今のところで来ていない.フーリエスペクトルの変化だけでなく,波形の変化,例えば波形からRMS値を計算するなど,損傷の程度を代表するような1~3個程度のスカラー値を求めて,誰でも簡単に損傷位置と程度を判定できるような方法を検討する必要がある. 最後に3)であるが,クラウドでのデータ表示方法を十分に検討する必要がある.クラウドに保管されるデータは時系列データであるため,例えばスペクトルに変化が生じたとしても,どこまでのデータが健全で,いつの時点からスペクトルに変化が発生し,現在はどうなっているかまでを分かりやすく表示する必要がある.また,圧電素子などの計測器が故障した場合の対応策も検討しなければならない.加えて,この研究課題からは少し異なるが,クラウドには膨大なデータが蓄積されるため,このデータを活用して機械学習を行い,クラウドにAIの機能を持たせれば,クラウドにおけるデータ解析で損傷判定を実施できる可能性を有するものと考えられる. 以上について,平成30年度には様々な問題点の解決に向けて研究を進める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者,早川分: 17,316 円,和田分: 64,576 円の合計 81,892 円の未使用額があるが,残高を適切に使用するための消耗品等が見つからなかったため,上記の残高が発生した. 研究分担者においては,平成30年度分担金と合わせ,適切な使用を行う予定である.
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