研究実績の概要 |
分子量1000で分画できる透析膜によって無機態ヒ素と有機態ヒ素を分画し、濃尾層堆積物とG1堆積物からの溶出試験を行なった。濃尾層間隙水に溶出するヒ素の1~6割が有機体ヒ素で、溶出濃度は非均質に分布することを明らかにした。溶出試験の検液が褐色を呈し、濃尾層堆積物から高濃度のフミン物質の溶出が確認できたので、DOC濃度を計測した。その結果、濃尾層堆積物のDOC濃度はG1堆積物の10倍値を示すことが判明した。ヒ素は有機物と複合体を形成しやすく、濃尾層堆積物から溶出した無機態ヒ素、有機態ヒ素は、濃尾層間隙水中で有機物複合体として溶存することが示唆された。濃尾層間隙水からG1地下水へのヒ素の物質移動は、濃尾層間隙水とG1地下水のDOC濃度差によって引き起こされ、DOCがG1地下水へのヒ素溶出の推進役の役割を担っていることが明らかになった。 濃尾層透水係数が10のマイナス8乗、G1層透水係数が10のマイナス3乗のオーダー(単位はcm/秒)であり、DOCを担体にしたヒ素の物質移動は、濃尾層間隙水を不動水、G1地下水を可動水でモデル化できる。ヒ素移動の機構は,不動水(濃尾層間隙水)と可動水(G1地下水)のDOC濃度差に比例し物質移動が惹起される一次反応速度モデルで近似できる。濃尾層堆積物からのヒ素溶出量(有機態、無機態の合計)は、濃尾層の水溶性DOC濃度と極めて相関性高く(決定係数0,970)、ヒ素濃度はDOC脱離量の1000分の1である。したがって,DOC濃度を地下水管理指標にして、G1地下水のヒ素濃度を可動水・不動水モデルを下敷きに可視化できることが明らかになった.現在のG1地下水ヒ素濃度はG1堆積物からのヒ素溶出量の2倍強であり、G1地下水中のヒ素が濃尾層間隙水の有機物複合体ヒ素を起源として、一次反応速度でモデル化でき,G1地下水のヒ素濃度の予測が可能である。
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