研究課題
2012年4月に開通した新東名高速道路には、高さ50mクラスの長大切土斜面が連続している。静岡県内の丘陵地帯にも大規模な切土斜面が連続しており、そのほとんどすべての斜面で建設中にすべりが発生している。理論的には同じ安全率だと思われるのに、切土斜面が大規模化すると崩壊の可能性が高まるのは何故か?地山内の弱面には薄い粘土シームが夾在し、潜在すべり面となっているが、その弱面に働く地下水圧が重要なカギを握っていると思われる。長大斜面では非定常浸透流のかたちで弱面内を地下水が流れるのが原因であろうかと考え、1m長さのパイプに土を詰め簡単な条件下の実験で確認したところ、教科書通りの結果を得た。次年度に向けて、より複雑な条件下での実験を予定している。たまたまのことであるが、平成26年3月末ごろから、上信越自動車道香坂チェインベース(CB)付近で大規模なすべりが発生した。原因は雪解けにともなう地下水位の上昇であると推定されている。研究代表者はすべり面を形成している粘土シームを不攪乱状態で採取し、圧密試験・せん断試験に供してみた。現場では排水せん断されると考えられるので、定体積せん断から得られるc’φ’をcd φdの代用とした。3個の不攪乱供試体から、cd =0 φd =33~35度の結果を得た。粘土シームが夾在する弱面のなかを地下水が定常浸透流として流れるものと仮定し、すべり岩体に作用する揚力up-lift forceと押出し力 push-out forceを次年度に計算する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究申請当時、新東名高速道路沿いの切土斜面の不安定化を解析対象として取り上げようと考えていたが、たまたま上信越自動車道香坂チェインベースで大規模なすべりが発生し、その現場から不攪乱試料を得ることができたから、それを利用する方針に切り替えた。潜在すべり面を形成する粘土シームの圧密・せん断試験を実施したところ、極めてバラツキが少ない強度定数が得られたうえ、すべり岩体ならびに潜在すべり面の幾何的な情報を正確に得られているから、情報が過去のものとなってしまった新東名の現場事例にくらべて高精度の研究成果が期待できる。パイプを用いた非定常浸透流試験を複雑な境界条件で実施し、実験データを正確に記録するため、高精度で感度が高い水圧計を購入準備中である。平成26年度に実施した実験では、水頭の概略的な変化を捉えることができたが、瞬間的な相対変化を捉えきれなかった。そのため教科書的な結果しか得られなかったことに対する、改善・対応策である。
切土斜面が大きくなると弱面中の粘土シームも長くなり、浸透流に時間遅れが発生する。このため小さな切土と違って長大切土斜面では、非定常浸透流が支配的になると考えられる。北米の露天掘り鉱山Bingham Canyon Mineが、2013年4月に斜面崩壊を起こした。7千万m3の崩壊は、non-volcanic landslideとしては北米有史最大だとのこと。9月にもまた崩壊が発生したとのことであるから、全体的に不安定になっているのであろう。写真で見ると斜面の高低差は200-300m程度にみえる。タイの北部、チェンマイの近くにあるMae Moh Lignite Mineも露天掘りで、現在約300m程度の掘削深さに達している。将来は500mまで掘りたいのであるが、ここ数年の間に斜面の不安定化が進行し問題化している。加賀の白山は現在隆起中で、10万年後には現在の富士山より高くなる勢いである。その白山の北西南斜面で、1500-1700mの標高域に現在大規模な斜面崩壊が一斉に進行中である。崩壊土量は3千-5千万m3になるかもしれないと、心配されている。これらの例はいずれも高低差が200-300mの長大斜面である。単なる偶然かもしれないが、200-300mという数字に意味があるように研究代表者らは考えている。もしそうであれば、その原因は地下水の時間遅れ挙動にしか求められないと考え、土が詰まったパイプのなかの非定常浸透流の実験と解析を、アレコレ試してみたいと考えている。有名な地すべり地である能登半島輪島近傍の深見地区では、地区内の地下水位上昇が降雨後2日も遅れて現れる。こういった事例をヒントに試行をくりかえしたい。
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