研究課題/領域番号 |
26420486
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
太田 秀樹 中央大学, 研究開発機構, 教授 (80026187)
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研究分担者 |
斎藤 邦夫 中央大学, 理工学部, 教授 (00092552)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 土質力学 / 岩盤力学 / 浸透流解析 / 定体積せん断 / 3次元安定解析 / 潜在すべり面 / 長大斜面 / 非定常浸透流 |
研究実績の概要 |
2012年4月に開通した新東名高速道路には、高さ50mクラスの長大切土斜面が連続している。静岡県内の丘陵地帯にも大規模な切土斜面が連続しており、そのほとんどすべての斜面で建設中にすべりが発生している。理論的には同じ安全率だと思われるのに、切土斜面が大規模化すると崩壊の可能性が高まるのは何故か?地山内の弱面には薄い粘土シームが夾在し、潜在すべり面となっているが、その弱面に働く地下水圧が重要なカギを握っていると思われる。長大斜面では非定常浸透流のかたちで弱面内を地下水が流れるのが原因であろうかと考え、1m長さのパイプに土を詰め簡単な条件下の実験で確認したところ、教科書通りの結果を得た。 平成26年3月末ごろから、上信越自動車道香坂チェインベース(CB)付近で大規模なすべりが発生した。原因は雪解けにともなう地下水位の上昇であると推定されている。研究代表者はすべり面を形成している粘土シームを不攪乱状態で採取し、圧密試験・せん断試験に供してみた。現場では排水せん断されると考えられるので、定体積せん断から得られるc’φ’をcd φdの代用とした。3個の不攪乱供試体から、cd =0 φd =33~35度の結果を得た。粘土シームが夾在する弱面のなかを地下水が定常浸透流として流れるものと仮定し、すべり岩体に作用する揚力up-lift forceと押出し力 push-out forceを計算した。平成27年9月に開催される第51回地盤工学研究発表会で発表予定である。 平成26年8月20日未明に、広島市安佐北区・安佐南区にかけて約50か所で土石流が発生し、多大の被害をもたらした。土石流発生源の現地調査を平成27年1月順次実施した。50か所におよぶ発生源に下流から接近するのが危険であったため、山頂からひとつずつ降りて発生源に到着した。孤立した山体に貯留可能な水量の推定を試行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請当時、新東名高速道路沿いの切土斜面の不安定化を解析対象として取り上げようと考えていたが、たまたま上信越自動車道香坂チェインベースで大規模なすべりが発生し、その現場から不攪乱試料を得ることができたから、それを利用する方針に切り替えた。潜在すべり面を形成する粘土シームの圧密・せん断試験を実施したところ、極めてバラツキが少ない強度定数が得られたうえ、すべり岩体ならびに潜在すべり面の幾何的な情報を正確に得られているから、情報が過去のものとなってしまった新東名の現場事例にくらべて高精度の研究成果が期待できる。 広島市安佐北区・安佐南区にかけて平成26年8月20日未明に発生した土石流が、山体中に貯留され水みちを通って噴出した地下水によって惹起されたことが、2度にわたる現地調査で確認できた。土石流発生源に多く見られた(パイプ状もしくは小トンネル状をなしている)水の噴出跡がその証拠であるといえる。噴出した地下水が山体中のどこに、どのようにして貯留されていたのかを試算中であるが、妥当と思われる結果に達していない。
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今後の研究の推進方策 |
切土斜面が大きくなると弱面中の粘土シームも長くなり、浸透流に時間遅れが発生する。このため小さな切土と違って長大切土斜面では、非定常浸透流が支配的になると考えられる。北米の露天掘り鉱山Bingham Canyon Mineが、2013年4月に斜面崩壊を起こした。7千万m3の崩壊は、non-volcanic landslideとしては北米有史最大だとのこと。9月にもまた崩壊が発生したとのことであるから、全体的に不安定になっているのであろう。写真で見ると斜面の高低差は200-300m程度にみえる。タイの北部、チェンマイの近くにあるMae Moh Lignite Mineも露天掘りで、現在約300m程度の掘削深さに達している。将来は500mまで掘りたいのであるが、ここ数年の間に斜面の不安定化が進行し問題化している。加賀の白山は現在隆起中で、10万年後には現在の富士山より高くなる勢いである。その白山の北西南斜面で、1500-1700mの標高域に現在大規模な斜面崩壊が一斉に進行中である。崩壊土量は3千-5千万m3になるかもしれないと、心配されている。これらの例はいずれも高低差が200-300mの長大斜面である。単なる偶然かもしれないが、200-300mという数字に意味があるように研究代表者らは考えている。有名な地すべり地である能登半島輪島近傍の深見地区では、地区内の地下水位上昇が降雨後2日も遅れて現れる。こういった事例をヒントに試行をくりかえしたい。上信越自動車道香坂チェインベースで発生した大規模なすべり事例ならびに広島市安佐北区・安佐南区で発生した約50か所におよぶ土石流の調査・試算を通じて、違った切り口からのアプローチも併用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
水圧分布実験実施に遅れが生じ、作業が滞り委託作業に遅れが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験実施のための委託作業費として使用する。
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