造山・浸食作用によって永年にわたる長期的な変動を続け、日常的に繰り返される短期的な天候変化に左右されながら、年月とともに季節とともに日時とともに変化し崩壊への道をたどり続けるのが山岳斜面である。山体内部を流れる地下水流がきわめて局所的かつ非定常的な特性をもつことから、豪雨などに起因して山体の一部に短期的ではあるが巨大な水圧が作用することも知られている。山体内部に伏在する潜在弱面内における地下水流が斜面崩壊の鍵をにぎる存在であるが、地下水流路の探索が難しく発生水圧の推定が困難であるため力学的な評価ができなかった。本研究では山岳崩壊の現場調査と地下水流の模型実験により、山体中を流れる地下水の力学的評価を試みた。 平成26年3月末に上信越自動車道香坂チェインベースで発生した①香坂CB斜面滑りと、平成26年8月20日未明に発生した広島県安佐北区・安佐南区における約50箇所の②広島土石流災害を本研究の調査対象とし、数度にわたる現地踏査(5回)・地下水流音響の現場計測(2回)・模型土槽実験(3シリーズ)を実施した。平成28年度には初年度・次年度に得られた結果を学会等で発表したが、平成28年度に上記①②の現場で新たな地盤の動きが発生したので更に追加的な調査・研究を進めた。 その結果、①香坂CB斜面滑りの現場では、山体内の潜在弱面に夾在する粘土シームの不攪乱試料を採取し、一面せん断試験器による定体積せん断を実施して排水強度定数をもとめたうえで、すべり過程にある斜面の安全率を計算してすべりを止めるための対策工法の妥当性を確認した。②広島土石流災害では豪雨によって発生した地下水の山体中における移動経路を推定し、また土石流の最大到達距離の経験的算定グラフ(等価摩擦係数)の作成に成功した。
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