研究課題/領域番号 |
26420491
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
中山 恵介 北見工業大学, 工学部, 教授 (60271649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 底泥 / メタン / 溶存酸素 / 貧酸素 / 湖沼 / 汽水 |
研究実績の概要 |
地球温暖化ガスの中で,二酸化炭素に比較して半減期までの期間が短いが,温室効果で見ると二酸化炭素の25倍であるメタンの発生量は,北極圏からの発生量が地球全体の4分の1を占めており,IPCCの報告によれば地球規模での環境変動は極域で顕著に現れることが報告されている.今後,現在の規模で北極圏の永久凍土が融解すれば,富栄養化した湖沼がより多く発生し,その結果,それらの湖沼からより多くのメタンが発生する可能性がある.そこで本研究では,寒冷地域における湖沼からのメタン発生に関する検討を行うために,北海道内において最も発生量が多いことが確認されている網走湖を対象とした現地計測結果の解析を行った.網走湖におけるメタン発生量が多い原因は,網走湖が典型的な汽水湖であるためである.高潮位になると約7kmほどの長さでつながっている網走川から網走湖に塩水が進入し,網走湖内の下層に蓄積され,表層付近の河川水により形成されている淡水層との間で密度界面が形成され,上下層と物質交換が抑制される.その結果,プランクトンの死骸に起因するデトリタス等の底層における蓄積によりヘドロ層が形成され,溶存酸素の吸収,栄養の溶出,メタンの発生が促される.網走湖は,日本国内においても典型的な富栄養化の進んだ湖沼であり,メタン発生量を計測するに適した湖である.その網走湖において底泥を不撹乱採泥装置により採取し,メタン発生量に関する計測,解析を行った結果,メタン発生量は上層の水塊の溶存酸素濃度の関数である可能性が示された.さらに,湖沼における流れ場との干渉によるメタン発生量を高精度に推定するために,これまで開発してきた3次元流動モデルの高度化を行った.これまでは構造格子を利用したモデルであったが,無駄な計算領域の確保や複雑地形への適用性の限界等の問題があり,非構造格子を利用することによりその問題を解決することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地観測に関しては,網走湖におけるメタン発生量に関して溶存酸素濃度との関係性が明確にされつつあること,海外における調査は,現地のアラスカ大学やクィーンズ大学において実施されている結果を参照出来ることから,網走湖における現地観測のみに集中することとした.その結果,これまでに未解明であった溶存酸素濃度とメタン発生量に関する関係を示すことができた.その点は,本研究の大きな成果の一つであると考えられる.さらに,湖沼における生態系モデルを含んだ3次元流動モデルの大きな問題点であった複雑地形への適用性を向上するため,構造格子系のモデルから非構造格子系のモデルへと変更を行った.構造格子のモデルは,ある程度の大きさの領域を確保し,その領域を一つのオブジェクトとして再現計算を行っていた.そのため,本プロジェクトで使用しているモデルはオブジェクト指向プログラミングを利用しているが,領域の分割に関してはその利点を十分に利用することが出来ていなかった.新しい非構造格子系のモデルでは,水平面内において複雑地形へ適用するために非構造格子を利用し,鉛直方向には成層場の特徴を考慮するため柱状のメッシュを採用している.その非構造格子の柱を利用し,その柱をオブジェクトとして定義することにより,領域分割においてもオブジェクト指向プログラミングの特性を十分に利用できるようになった.また,室内実験に関して,コリオリ力を考慮できる回転水槽を利用して再現実験を行い,内部波の発生と長期輸送に関する残差流の再現を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
現地観測に関しては,ある程度の観測結果を得ることができていることもあり,追加の観測に関しては必要に応じて対応する予定である.出来れば,カナダのクィーンズ大学のDr. Leon Boegmanまたはアラスカ大学のDr. Katey Walterを訪問し,北方圏における湖沼での溶存酸素濃度やメタンに関する観測結果の共有化を進めたい.数値計算モデルに関して,非構造格子モデルの開発がほぼ終了したこともあり,実際に網走湖に適用し,その再現性の検討を行う予定である.再現性の検討には,新しく組み込まれた乱流モデル(GLS乱流モデル)とこれまでのモデルの再現性の違い,非構造格子化したことによる効果等の検討を行う予定である.GLSに関しては,k-ε等の統合型モデルであるが,よりチューニングされた係数が利用されており,再現性に何らかの違いが出るのではないかと考えている.室内実験に関しては,およそ必要な実験は終了したこともあり,数値モデルによる再現計算と合わせてとりまとめ,関連する国際雑誌に投稿する予定である.その他,湖沼におけるメタン発生に関しては流入河川の水質も大きく関係しており,現在,オブジェクト指向プログラミングを利用した水文流出モデルの開発も進めており,合わせて継続する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予算を使用した結果,約3万5千円が残額として生じた.2月以降に観測の予定がなく,来年度以降の消耗品購入費に回すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
観測やその結果の解析用の室内実験消耗品として使用する予定である.
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